君がいない


――君がいなくなった翌朝。


コーヒーの香りがしない朝を迎える。


キッチンに行くと、
悲しくなるくらいの静寂。



「……おはよう」



ぽつりと呟くように挨拶しても、何も返ってこない。


君がいつも使っていた、あたしのエプロン。

キッチンのイスの背もたれに、無造作に掛けられていた。


エプロンを手に取り、鼻に押し当てる。

君の匂いがわずかに残っていた。

いつもつけていた、エルメスの【ナイルの庭】。


変わった名前だとあたしが言うと、君は、大切なのは中身だと笑った。



香水の優しくて、甘い香り。

胸がじわじわとしめつけられて、涙がこぼれた。




< 7 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop