君がいない
――君がいなくなった翌朝。
コーヒーの香りがしない朝を迎える。
キッチンに行くと、
悲しくなるくらいの静寂。
「……おはよう」
ぽつりと呟くように挨拶しても、何も返ってこない。
君がいつも使っていた、あたしのエプロン。
キッチンのイスの背もたれに、無造作に掛けられていた。
エプロンを手に取り、鼻に押し当てる。
君の匂いがわずかに残っていた。
いつもつけていた、エルメスの【ナイルの庭】。
変わった名前だとあたしが言うと、君は、大切なのは中身だと笑った。
香水の優しくて、甘い香り。
胸がじわじわとしめつけられて、涙がこぼれた。