君がいない


外に出ると、あたしはいろんなところに視線を向ける。

今までは、ただ、前だけを見て、黙々と歩き続けていたのに。


どこかに、君がいそうな気がして。

あたしに気付いた君が、「よっ!」なんて声を掛けてきそうな気がして。



でも、君はどこにもいないんだ。



もしも、あたしに気付いたとしても……。

きっと君は声なんてかけずに、この雑踏の中に消えていくに違いない。



「溜息ばかりついてる」


「……えっ? そう?」



人に言われて初めて気付いた。

最近、知らないうちに溜息ばかりがこぼれる。



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