運命の人
「もし本当に大丈夫なら私はこれで失礼させていただきたいのですが。終電に乗り遅れたら帰れなくなるので」
「それならタクシーに同乗しませんか?最寄駅まで送らせてください」
「いえ、それはさすがに」
初対面だし、終電はあるんだから。
「大丈夫です」
「ですが、今こうして引き留めてしまって、そのせいで乗り過ごさせてしまったのですから。責任は取らせてください」
「あー…いえ。そもそもの問題として、寝ちゃって乗り過ごしたのがいけないので」
照れ隠しに笑うと男性は息を呑んだように固まった。
「あの、本当に大丈夫ですか?やっぱり具合悪いんじゃ」
心配になり、顔を覗き込むと手で顔が隠された。
「すみません。ちょっと近い」
「すみませんっ」
知らない人相手に近付き過ぎた。
無遠慮だったと反省し、後退する。
「あの…それじゃあ、お大事になさってください」
「え?あ、いや、だからちょっと待って」
今度は手を掴まれた。
反射的に引っ込めると男性はまた謝った。
「すみません。でもやっぱりこのまま帰したくなくて」
「なぜですか?」
見た目はすごくカッコいいけど、今までの言動といい、実はすごく変な、怪しい人なのかもしれない。
そう思ったらなんだか怖くて、私は距離を取るようにジリジリと下がる。
「そんなに警戒しないで。怪しい者ではないですから」
そう言うと男性はスーツのポケットから名刺入れを取り出し、そこから名刺を差し出してきた。
私は何かあったら逃げられるように、出来る限り手を伸ばして名刺を受け取り、警戒しながら目を通していく。