あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした

第三話





フードを深く被り直し総司の後ろを足早に付いて行く。

小麦色の着物にグレーに黒の縦線が入った袴を履いて、腰には二本の刀。
現代で新選組の漫画は沢山読んできたが、こっちの"沖田総司"の方がしっくりくる。

(あれが本物の…沖田総司。三段突きで有名でしかも甘味が大好きな…あの…)

実感が湧かない。
一人の時に何気なく読んだ本が携帯小説で、そこで新選組を知ってからどんどんハマっていったわけだが、それに登場する人物達が今目の前にいるのはとても信じられない。

「あっ、土方さーん!早いですよう歩くのー」

土方さんの後ろ姿を見つけた総司が早速ぶつぶつ文句を言っている。

「あぁ?遅いのが悪い」

と言いながら、歩く速度を緩める土方さん。

(……頑固なのか照れ屋なのかこりゃ分からん)

そんな事を考えながら空蒼は二人の後ろを付いて行く。

「お前はどこから来た?この辺の奴じゃねぇだろ」

するとチラッと空蒼を見ながらそう聞いてくる土方さん。

(どこから?んー…一応東京に居たけど…今の時代じゃ東京って言葉は存在しないし…)

流石にいつまでもフードを掴んでいるのは疲れたので、手を下げながらなんて言おうか考える。

「おい、聞いてんのか?」
「っ……」

いつの間に左横に来たのか、空蒼の方を向きながら催促してきた。
チラッと土方さんの方を見ると安定の無表情。

(…短気なんだな?)

空蒼は前に向き直り答える。

「……江戸です」
「…江戸だって?」

少しびっくりした土方さんにコクっと頷く。

(…間違ってはいない…はず)

空蒼は土方さん達が試衛館時代を過ごした日野から意外と近くに住んでいた。
これはもう同民と言っても過言ではないのだ。

「へぇ〜、俺達と同じですね」
「っ……」

声のした方を向くと、いつの間に総司も右横に居たのか、一緒に並んで歩いている形になっていた。
右側に総司、左側に土方さん。

(…なんか、挟まれてる?いや、連行?)

そんな風にも思えるこの並び方だが、口に出すつもりは無い。
それにさっきから気になっていたのだが、さっきから街の人達がチラチラ見てくる。
自分を見ていると言うより、二人の事を見ている感じ。

チラッと横目で見ると、こっちを見てひそひそと話していた。

(…そういやさっき、名乗りもしてない土方さんを見て、鬼の副長って言ってた…)

もしかしたらここら辺の人達は新選組の顔を覚えているのかもしれない。

「江戸のどこから来たんですか?」

ニコニコしながらあたしに聞いてくる総司。

(…あたしは貴方のその笑顔が怖いですよ?)

感情が読み取れない笑顔ほど怖いものは無い。
一見親しみやすそうな口調だが、これでも新選組の一番隊組長、そう易々と警戒は解いてくれないらしい。

でもこちらからしたらそれは有難いに越したことはない。
こちらも仲良くする気なんて微塵もないのだから。
今日の分の飯と寝床さえ提供してくれれば、明日には出ていくつもりである。




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