あたしが好きになったのは新選組の素直になれない人でした




「……さぁ?」

江戸のどこ?と聞かれても、そこまで答える義理はあるのだろうか。
空蒼の素性を知る為とは言っても、こんなどうでもいい話を聞いてくるのはどうかと思う。

「…うーん、そう来ましたか…どうしましょう土方さん?」

質問の答えに納得いかないのか、土方さんに話を振る。
視界の隅に土方さんを捉えながら、そんなのはお構い無しに歩き続ける。


「…お前はどうしてあの茶屋の娘を助けたんだ?」
「……?」

意外なその質問に空蒼は土方さんの方を向いた。

「っ…」

ずっと空蒼の事を見ていたのかバチッと目が合った。
そんな事とは知らない本人はびっくりしてバッと視線を前に戻す。

総司との話の続きを聞かれるのかと思ったら、全然違う事を聞かれたのでそれにも一応びっくりしている。

(…どうして助けたのかだって?どうしてって…言われても…)

「お前の知り合いなのか?」

考え込んでいるとまた違う質問をされた。

「…いえ」

今日初めてこの時代に来たのに知り合いなわけが無い。
そういや、あの後彼女は無事店に戻れたのだろうか。まぁもう会わないだろうしどうでもいいけど。

前を見ながらそんな冷めた事を考える。

「じゃあ、どうして知り合いでもない茶屋の娘を助けたりなんかしたんだ?」
「……。」

視線を目の前から左側に移し、じっと土方さんを見る。
無表情で何を考えているのか全然分からない。

どうして土方さんはこんな質問をするんだろう。
その口調はまるで"知り合いじゃないと助けない"とでも言っているかのようだ。

空蒼は前に視線を戻し、考えてから口を開いた。

「……助けるのに理由なんかいるんでしょうか」

考えて考えぬいて出た言葉がこれだ。

「…あ?」

なのにすぐに返された。
あ?って言われても、土方さん達に言える理由ではない。

助けた理由…深く考えては居なかったけどあるとするなら一つ、ここが何処だか知りたくて首を突っ込んだだけだ。
それに聞き慣れた言葉を聞いたら首を突っ込まずにはいられなかった。
あんな理由で人を殺めるなんて、この人達は絶対にやらない、そう思ったから。

それ以外に理由なんて見当たらない。
けど、そんな理由が無くても、人が危ない目にあっていたらきっとさっきみたいな行動をするんだろうと空蒼は思う。

(…人と関わり合いになりたくないくせに、黙って見過ごすことが出来ない自分はきっと矛盾だらけなんだろうね…)









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