私に婚約破棄しようとしてきた王子が、階段から落ちて意識不明になりました

2 フェリクスが意識不明に!?

 コツッ……

 この角を曲がったら、もうフェリクスの待つ階段が見えてしまう。
 私は大きな柱の横で一度立ち止まると、大きく深呼吸をした。ドキドキと速まる鼓動のせいで、冷静を保ちたいのにどうしても落ち着かない。



 大丈夫。大丈夫よ、アリエル。
 前向きに考えるのよ。

 フェリクスは、私が初めて勇気を出して贈った刺繍のハンカチにも、何も反応してくれなかった男よ。
 お礼どころか、一切触れてもくれない。そんな冷たい男なのよ。

 婚約破棄できてよかったじゃない。
 そうよ。もっといい男性は他にもいるわ。だから大丈夫よ。



「ふぅ……」


 ゆっくり息を吐いて、グッと手を握りしめる。
 覚悟を決めた私は、通路の角を曲がり広間に出た。
< 8 / 61 >

この作品をシェア

pagetop