破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
 家庭教師であるマイヤ夫人の緩急を上手く使い分けた指導のもと、わたしはめきめき能力を向上させている。
 淑女としての礼儀作法はもちろんのこと、勉強や一般的な教養、護身術まで、彼女の指導は多種多様だ。
 
 文字が一通り書けるようになると、騎士団の訓練に参加中のオスカーへ毎日せっせと手紙を書いて送った。
 オスカーは剣術の腕を買われ、有事の際には騎士として召集される「予備役」という立場にいる。
 普段はエーレンベルク家の執事の仕事をしているけれど、騎士団の訓練に参加するため定期的に10日ほど伯爵家を空けることがあるのだ。
 
 オスカー宛の手紙内容といえば、とりとめもない日常のことや新しく学んだことを簡単に書き綴る程度の簡単なものだが、文字の練習にはちょうどいい。
 生真面目な彼は、毎回スペルミスや言い回しを直して返事をくれた。

『送られてくるたびに字が読みやすくきれいになっているので驚いています。私より上手くなる日もそう遠くないかもしれません』
 オスカーの文字は、綺麗でありながら力強い。
 ミヒャエルの繊細で几帳面な文字とは違うこの文字に、オスカーらしい若々しさとひたむきさを感じてドキドキするのはどうしてだろう。
 いちいちこんなことで絆されてはならないというのに。
 ドリス・エーレンベルクを追放する冷徹な男、オスカー・アッヘンバッハを出し抜いて長生きするのが、わたしの目標なのだから。

 
 アルト・ハイゼンが我が家を訪ねてきたのは、オスカーが定期訓練から帰館した数日後のことだった。
 
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