破滅予定の悪役令嬢ですが、なぜか執事が溺愛してきます
 アルト・ハイゼンは男爵家の三男坊で、ゲームにも登場する騎士だ。
 年齢はオスカーと同じで貴族学校時代からの友人でもある。
 前世風の言い方をすれば、オスカーの「バディ」として共に戦場で活躍する勇猛な騎士なのだが、末っ子らしい人懐っこさと要領の良さを兼ね備えている。
 
 兄がふたりいるため自分が家督を継ぐことはまずないというお気楽さと、周囲に可愛がられながら育ったことによる大らかで天真爛漫な性格。そのくせ戦場に出ればオスカー以上に冷徹で、敵の命を奪うことにためらいがないというギャップ。
 ゲーム内では、オスカーとヒロインをくっつけようと尽力してくれる役目もあり、ヒロインとの絡みが多いキャラでもある。
 
 様々な点でオスカーとは正反対なキャラ設定のアルトだ。
 だから、アルトのほうがオスカーよりもいい! と、彼を一番の推しにしているプレーヤーもいた。
 アルトも攻略対象にしてほしいとか、アルトが主人公のスピンオフを作ってほしいという要望も多かったと記憶している。
 二次創作界隈では、アルト×オスカーというBLものを生み出す腐女子がわんさかいたのは余談だ。

 ある日、そんなアルトが忘れ物を届けにオスカーを訪ねてきた。

 メイドのハンナから「アルト・ハイゼン様がいらっしゃっている」と聞き、用を済ませて帰ろうとしているアルトを廊下で見つけて慌てて呼び止めた。
「あの!」
 癖のある栗色の毛に垂れ目がちな群青色の瞳、つるりとした白い肌。人懐っこい笑顔で真っすぐにこちらを見るその様子は間違いなくハルアカのアルト・ハイゼンだ。
 
 プレーヤーが操るヒロインとオスカーのを仲を取り持ってくれるキーマンである彼とはいつか接点を持ちたい……いや、持たなくてはならないと思っていた。
 ハルアカのシナリオでは、悪役令嬢ドリスの嘘を暴くシーンでもアルトが登場している。
 軽薄な遊び人を装ってドリスに近づき、言葉巧みに誘導して彼女のこれまでの悪だくみや裏社会とのつながりの証拠を集めていくのだ。
 そうして集めた証拠や証言をもとに、オスカーに「あの子を追放しろ」と迫る。
 つまりこの男はヒロインと同様、ドリスの敵だ。
 その場面を記憶しているわたしは、この癖毛のアルトのことを要注意人物として心にとめていた。

 こんなに早くアルトに会えるだなんて思ってもみなかったわ。
 仲良くなって味方につけておかなきゃ!

「あの……聞きたいことがあるんです!」
 呼び止めたものの何を話せばいいかわからず、咄嗟に思いついたのがオスカー宛の手紙のことだった。
 
「何? 僕が答えられることならいくらでも相談にのるけど」
 アルトのその返事に思わず固まってしまう。

 嘘!? このセリフは……!
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