愛のない一夜からはじまる御曹司の切愛

ヒーロー Side

『あなた以外抱き合ったことなんてない』
 
 悲鳴のような声が今でも頭に残る。
 時計を見れば十七時を過ぎたところだった。今からすぐに東京にもどれば約束の時間に戻ってこられる。

 回っていない頭でそれだけを考えて、俺は車に飛び乗った。

どういうことだ? 俺はどこで間違えた? いくらそれを考えても今の俺には知る術はない。


 咲良と初めて会ったのは、もう六年前。大学で知り合ったと言って元樹が連れてきた彼女は二十歳ぐらいだったと思う。
 
 咲良という名前がぴったりな、花のように微笑む表情に俺は年甲斐もなく見とれた。しかし、すぐにそれが元樹が連れてきた相手だと思い出し、会釈だけをした。
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