愛のない一夜からはじまる御曹司の切愛
 「少しだけ出かけてきてもいい? 夕方友達に会ったって話したじゃない。久しぶりにお茶でも飲まないって」

 「あら、なら早く行けばよかったのに」
 何も疑っていない母が、湯呑を持ったまま私を見た。

「そうだけど、やっぱり弥生は寝かしつけてからかなって」

 この二年こんな風に一人で出かけたいと言ったことがなかった私に、母は笑顔で私を見ている。

 嘘をついていることに罪悪感が募るが、本当のことなど口が裂けても言えない。
 
「弥生は見てるから大丈夫だ」

 口数が多くない父もそう言ってくれて、私は「ありがとう」と伝えた。
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