泣き虫の凛ちゃんがヤクザになっていた

3話 後編

 幸希が和住に簡単な面接と仕事の説明を受けている間、俺は別室の施術台の上に腰かけて待っていた。
 しばらくすると、一通りの説明を終えたらしい和住が部屋から出てきた。
 幸希は書類に必要事項を記入しているらしい。

「凛ちゃんが俺にバイトの子紹介してくれるなんて、どういう風の吹き回しよー?」
 和住はヘラヘラと笑う。
「次の仕事が決まるまでの短期間だけどな」と、俺は返した。
 和住には、事の経緯についてはあらかた説明をしている。
 しかし、俺と幸希の関係については話していない。なぜなら、いろいろとこの男に勘繰られるのは面倒だからだ。
 こいつのことだから、会うたびにうざったい茶化しを繰り返すに違いない。
 
「でもさぁ、バイトするんだったら、お前が経営してるガールズバーとかでも良かったんじゃないの?わざわざ俺の店じゃなくても」
「いいだろ。何だって」
 俺は面倒臭くて、和住を適当にあしらおうとする。
 俺はこいつのヘラヘラした態度が好きになれない。
 
「あ!分かった!お前、あの子が他の男とベタベタしてるの嫌なんだ!」
「はあ?」
 俺は和住の突拍子もない発言に、思わず動揺した。
「あれ?図星?」
「……ちげーよ。そんなんじゃねぇって」
 俺は耳の裏を掻いた。
「へー、……じゃあ、俺、あの子のこと口説いてもいいの?」
「あ?」
 俺は一瞬、頭に血が上りそうになった。
 どうやら俺の怒りは顔に出ていたらしく、和住は「すみません、冗談です」と肩をすぼめる。

 和住は「冗談」だと言ったが、こいつの女癖の悪さは俺が一番知っている。
 人妻だろうがお構いなしに手を出すし、ヤクザの愛人でも気にしない。
 そのせいで和住は三回山に埋められかけたし、一回コンクリートと共に海に沈められかけた。そのたびに俺が仲裁に入って、事なきを得ている。
 正直和住の手癖の悪さは心配だが、俺が目を光らせておけば大丈夫だろう。
 もしも、和住が幸希にちょっかいをかけるようなことがあれば、俺はこいつを半殺しにしてセメントで固めるつもりだ。
< 6 / 28 >

この作品をシェア

pagetop