100日婚約~意地悪パイロットの溺愛攻撃には負けません~
「婚約しているのは知っているわ。冗談よ。フライトの時間だから行かないと。話を聞いてくれてありがとう」
急ぎ足で去っていくスタイルのいい後ろ姿を見つめ、和葉は胸に手をあてた。
(心臓に悪い冗談はやめて。美玲さんがライバルになったら、私に勝ち目はない)
そこまで考えて引っかかり、眉根を寄せた。
(勝ち目? 二か月後には家を出ていくつもりなのに勝負してどうするのよ。婚約解消後は美玲さんがなにをしようと私には関係ない)
もし彼と両想いになれるのなら、期限後もあの家にいたい気持ちはある。
けれども、いつか好きになってもらえるという希望を見いだせない。
仕事一途で生きてきて、女子力が低いのは自覚していた。
それならば期限でスッキリと別れた方がいいだろう。
まだ淡い恋心がしっかりと形になってしまえば、片想いのままで婚約者を続けるのが苦しくなりそうだ。
和葉にとって一番大切なのは仕事で、それが手につかなくなるのだけは避けたい。
そう思うのに、婚約解消後に美玲が彼に迫るかもしれないと考えると胸が苦しくなった。


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