100日婚約~意地悪パイロットの溺愛攻撃には負けません~
ビーチとネックレス。負けず嫌いの片想い
十月の後半入っても日中はまだ暖かい。
今日の和葉は夜勤明けなのだが、整備士に向けた新型機の説明会に出席したため作業着を脱いだのは十一時半である。
空腹でさっきからお腹が鳴り続けており、帰宅するまで耐えられそうにないので空港内でなにか食べることにした。
(そうだ。テイクアウトして展望デッキで食べよう)
ここのところ晴天続きで、今日もフライト日和の青空だ。
離着陸する機体を眺めながらの素敵なランチに胸を弾ませた。
第二ターミナルの一階、到着ロビーに近いカフェに行き、入り口横に置かれているメニューの立て看板を見る。
今は目に入るすべてが美味しそうで、写真つきのメニューのよだれが垂れそうになった。
(海老とアボカドのサンドイッチにしようかな。えっ、千二百円は高い。それじゃスモークチキンと野菜の方に……同じ値段だ。飲み物をつけたら千七百円。どうする? 無理でしょ。コンビニにしよう)
間もなく正午になるところで、次々と店内に吸い込まれていく懐に余裕のある客たちが恨めしい。
お気に入りの青いカーディガンを羽織った肩を落としたら、ふいに後ろから呼びかけられる。
「和葉」
少し低くて爽やかな、いつも聞いている声だ。
鼓動を弾ませ振り向くと、凛々しい制服姿の五十嵐がこっちに歩いてきた。
キャスターつきのフライトバッグを引いており、どこかの空港から羽田に戻ってきたところのようだ。
たちまち加速する動悸に気づかれないよう、わざと素っ気ない口調で挨拶する。
「おつかれさまです」
「おつかれ。夜勤明けじゃなかった?」
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