100日婚約なのに、俺様パイロットに容赦なく激愛されています
「聞いていないふりをしてくださいよ」
言い合いをしている間も鼓動が弾み、心なしか顔が熱い。
普通に会話をしようと努力している状態なのを、彼は少しも気づいていないことだろう。
順番がきて店員に注文する彼はいたって平静で、いつも通りかっこいい。
端整な横顔をこっそり堪能していたら、注文の品数がやけに多いことに気づいた。
和葉が最初にお願いしたメニューの他にも二品、追加して会計している。
「クラブハウスサンドにブレンドコーヒー?」
「俺の分。さっきの復路便が今日のラストフライトだ」
午後はフライトシミュレーターの予約を入れているという。
本物とまったく同じ計器が揃った疑似コックピットで、画面を見ながら飛行訓練ができる装置のことだ。
そのため夜になるまで帰宅しないが、勤務は終わりなのだそう。
「報告書を出したら展望デッキに行く。食べながら待ってろ」
「はい!」
一緒にランチができるサプライズに満面の笑みで返事をし、慌ててすまし顔を作った。
秋空へ飛び立ちそうなほど舞い上がっているのに気づかれたくなかったのだが、クッと笑った彼に額を弾かれる。
「痛っ」
「隠しても遅い。素直に喜べよ」
意地悪な言い方をこれまでは迷惑に思っていたはずなのに、今はそれさえも嬉しく、照れ笑いする。
颯爽と店外に出ていく後ろ姿に見惚れてしまい、恋心の制御に苦慮した。
(マズイな……私)
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