100日婚約なのに、俺様パイロットに容赦なく激愛されています
「慧さんはパイロットに向いていると私も思います。お兄さんの夢を継いでパイロットになったんだとしても、実際にジャンボジェット機を飛ばしているのは慧さんです。フライトバッグにお兄さんの写真を入れていても、コックピットから空を見ているのは慧さんなんです。真摯にパイロットとして生きてきた人生を、『兄の代わりに飛んでいるだけだ』なんて言わないでください」
静かな境内に、必死に説得する和葉の声が響く。
祈りの場で大きな声を出すのはどうかと思うが、神様にも慧を止めてもらいたい気持ちだ。
真顔で聞いてくれていた彼が、一拍置いて口を開く。
「バカだな」
「なっ! 人が真剣に――」
「誰が辞めると言った」
「えっ?」
「辞めたら俺になにが残るだろうと考えていた。お前のような情熱はないが、すべてを捧げる覚悟で飛んできたつもりだ。コックピットクルーを辞めたら、おそらくなにも残らない。だからこれからは兄の代わりではなく、自分の希望で空を飛ぼうと思う」
優しく吹き抜ける冷たい風に、微かに潮の香りがする。
海側からの日差しを浴びる彼が眩しそうに目を細め、口角を上げた。
「慧さん……!」
嬉しさのあまり、涙がにじんで視界がぼやけ、両手を広げて飛びついた。
しっかりと受け止めてくれた彼の吐息が前髪にかかる。
「心配させてすまないな」
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