100日婚約~意地悪パイロットの溺愛攻撃には負けません~
「二部屋でも三部屋でも、どうぞ」
「ありがとうございます!」
現金な反応をすると嘆息されたが、呆れではなくホッとしているような顔に見えた。
冷めたコーヒーを飲み干して五十嵐が小声で独り言を呟く。
「手放す気はないが」
「なにか言いました?」
「いや、なにも」
立ち上がった彼はテレビボードの上にあった車のキーを掴むと、リビングのドアへ向かう。
「お前の家に行くぞ」
「私、しばらくここに住むんですよね?」
「なんの用意もなく泊まれる女だという自己紹介か?」
「あ、そうでした。明日の着替えはいります。携帯の充電器と教科書も。試験を控えているので勉強しないと」
愛用のコスメやヘアアイロン、可愛いパジャマにお気に入りの香水。そんな女性らしい返事ができないことに苦笑しつつ、大きな彼の背を追いかけた。


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