100日婚約~意地悪パイロットの溺愛攻撃には負けません~
茄子とドライバー。恋が滑走路を走り出す
翌朝八時。肩下までの黒髪をてきとうに結わえ、カバーオールに着替えた和葉は慌ててコントロールルームのドアを開けた。
整備部長がみんなの前に立ったところのようで、これから朝礼が始まる。
ぎりぎり遅刻せずにすみ、急いで作業着姿の同僚たちの中に紛れ込んだ。
機材変更やインシデント報告を聞きながら、今朝の寝坊を反省する。
(今までより通勤に時間がかかるとわかっていたのに。五十嵐さんが起こしてくれなかったら、完全に遅刻だった)
昨夜は彼の車で和葉のアパートまで行き、数日分の衣類と洗面用具、布団などを積んで戻った。
遅い時間となったためシャワーを浴びたあとはすぐに就寝し、今朝は六時に起きる予定で携帯のアラームをセットしていたのだが時間になっても起きられなかった。
五十嵐は今日、十一時出勤で社内スタンバイなのだそう。
ゆっくり寝ていられるはずだったのに、断続的になり続ける和葉のアラームで起こしてしまった。
『いい加減に目を覚ませ!』
(一瞬で眠気が吹き飛んだ。目覚めたらすぐイケメンって心臓に悪い)
だらしない寝顔や色気のないパジャマ姿を見られたと恥ずかしがっている暇はなかった。
布団をはぎ取られて盛大に驚いたあとは、超速で身支度を整え家を飛び出した。
(顔を洗って着替えただけ。いつもは一応メイクをしているけど、今朝は省いた。雑な女だと思われただろうな)
和葉を『気に入っている』と言った彼だが、ひと晩でその発言を後悔したのではないだろうか。
朝礼が終り、今日担当する便を確認して駐機場へ出る準備をした。
重たい工具箱を提げ、コントロールルームを出て通路を進んでいると、隣に浅見が並んだ。
「おはようございます。今日は別のチームですね。浅見さんの昼休憩は何時からですか?」
時間が合うなら一緒に社員食堂に行きたいと思ったのだが、まったく関係ない話をされる。
「金城が高級外車で出勤したという噂を聞いたぞ」
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