想箱

昼下がりのルピナス

 テレワークの会議が一段落して

 いくらかの言葉を届けようとも
 伝えきれない
 そんなもどかしさに

 少し疲れを覚えて
 リビングへと来てみたら

 ソファーで横になっている君が
 読みかけの本を胸に抱いたまま
 すやすやとねむっていた

 まるで物語の
 少女のような寝顔で

 春のそよ風が
 ビオラ模様のカーテンを揺らして

 昼下がりの日差しが差し込むと
 ワンピースから覗いている
 君の脚にさわった

 失礼なやつだ

 うららかな白い光にも
 ついやきもちを焼いてしまう
 そんな僕を

 寄せ植えのルピナスが
 窓の外から笑っていた

『なんだい平日に珍しいやつがいるな』
『君こそ昼間に会うのは週末ぶりだね』

 そんな会話を窓際で
 ルピナスと交わしていると

 ふいに

 「だれと話しているの?」

 鈴のような君の声がして
 その音色に振り返る

 残念、起きてしまったか

 ちょこんと前に揃えた素足に
 さっきまでの春の日差しが
 少しうらめしい

「ルピナスの花言葉を言ってみろだって」

 きまりが悪そうな顔で僕がそう言うと

 君はけげんそうな顔して
 小首をかしげ

 そして

「紅茶のむ?」

 そう言って
 ちいさく微笑んだ

 枝垂た黒髪が
 君の唇にそっとふれる

 春のそよ風が僕を通り抜けていく

 ルピナスには心の中で返事をしよう
 答えは『いつも幸せ』だと


 
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