想箱

シリウスの涙

ダッフルコートのポケットで
つないだ手の指先までかじかむような
そんな寒い夜

イルミネーションのトンネルを通り過ぎると
澄み切った空には
冬の星座が輝いていた

いつものように二人で歩く
そんな静かな帰り道

オリオン座は
アルテミスの涙かもしれないねと

ふと君が
夜空を見上げてつぶやいた

僕にだけ
聞こえるような小さな声で

悲しい神話を
思い出したんだね、きっと
その結末を 
二人の結末を

握りしめる手をほどいて

星空に手を伸ばして
つかまえるふりをしてから

少し震える白い指に
もう片方の手で暖めていた
この指輪をはめてあげたら

君の頬で輝く
流れ星を指でぬぐって

君をこの胸に抱きしめ
願い事を言おう

顔をうずめた
君にだけ聞こえるような声で

三度ではなく 
何度でもずっと

いつまでも
君のそばにいたいと

流れ星はもう
見えないけれど

抱きしめた手にある
シリウスはもう消えない


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