あいしていた、昨日まで。
金曜午後のカラオケは、土日を待ち侘びる放課後の生徒の黄色い声で華やいでいる。

大学生になり、学校帰りこうして遊びに出ることが増えた。
受験という縄に縛られ我慢を要した高校の三年間。
その我慢が今になり弾け、空音の心を奔放にした。

「空音、久しぶり」
「朱莉!久しぶり。元気してた?」
歌を聞かずにスマホをいじる空音に、曲に負けじと声を張り上げ隣に移動してきたのは朱莉だ。
朱莉は同じ大学の別の学部で、空音にとっては友達と呼べるほどの関係ではなかった。
連絡先も知らなければ、苗字すら知らない。
こうしてたまにカラオケで会うだけの関係。

「まあ元気ではあったんだけど、ちょっと色々あってね」
「色々?」
「知りたい〜?」
特段興味はなかったけれど、朱莉の望む返答を知っている空音は笑顔を作る。
「うん。知りたい知りたい」
朱莉は待ってましたと言わんばかりに身を乗り出し、話した。
「前に話したことあったと思うんだけど、友達の紹介で知り合った人いるって言ったでしょ?社会人の。その人と結構いい感じでさ、デートとかしてこの頃忙しかったの」
恋バナは人を饒舌にする。
「その人、私のこと本気で好きらしくてさ。毎日連絡くるし、暇さえあれば電話かけてくるし。なかなか遊ぶ時間取れなくて」
「じゃあ彼氏できたんだ、おめでとう」
ノロケを終わらせ早く切り上げようと空音は結末を自ら口にする。
「それが、付き合わなかったんだ。だってデート代、出してくれるのはいいんだけどなんかそれを、俺って大人でしょ?カッコいいでしょ?みたいな感じでアピールするのがどうしても無理で。そこは年上らしく、スマートにいって欲しかったんだけどね」
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