入れ替え婚 ~妹に婚約者を奪われたら冷酷と噂の妹婚約者に溺愛されました~
「はっ。女を抱いて泣かれたのは初めてだ」
「……すみません」
「俺はちゃんと選択肢を与えた。選んだのは君なんだ。被害者面はやめてくれ」

 彰史の冷たい物言いに円香はさらに涙をこぼす。

 円香の事情を知っているのだから、今このときは円香を気遣ってほしいと思うのは我儘だろうか。ずっと優しくしてくれていたのに、このタイミングで彰史に突き放されるのはとてもつらい。

 けれど、彰史の言っていることが正論だというのは、円香もよくわかっていた。だって、彼の言う通り、自分でこの道を選んだのだから。


 始まる前は彰史の気持ちに報いたいだなんて殊勝な心持ちでいたはずなのに、今はどうしようもない虚しさを抱えている。

 円香はそのとてつもない虚しさを抱えたまま、自分のベッドへと戻り、涙を流したまま眠りについた。
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