御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
 小柄でかわいらしい顔立ちをした彼女は、ちょっとした仕草が庇護欲をそそり、男性社員の受けがいい。
 緩いパーマをかけた栗色の髪はつい触れたくなると、休憩時に話していた男性がいたが、同姓の私から見てもたしかにそうだと思う。

 普段は他人との関りが薄い私も、彼女と会話をする頻度は比較的高い。
 三浦さんの指導担当をしているわけではないが、前に本人に頼まれて手助けをして以来、こうして声をかけられるようになった。

「三浦さん、経理課の空調整備の件ですが」

 先月、無事に株主総会を終えて、忙しさはとりあえず落ち着いている。今のうちに社内の環境を整えておくために、一斉に見直しを進めていた。
 彼女がまかされている部分もあり、進捗を把握しておきたい。

「いっけない! 忘れてました」

 あっと目を見開いた彼女は、瞬時にしゅんとした顔になる。

「でも私、今日中にお中元の手配をしないといけなくて」

 その手配を頼まれたのは、ずいぶん前だったはず。てっきり、もう終えているものだと信じ込んでいた。
 タイミング的にはギリギリで、これ以上遅くなるのはさすがにまずい。そちらを優先してもらうしかないようだ。

 まだ社会人としての自覚が足りないのか、彼女は自分にまかされた仕事を管理しきれていない。
 手伝ってしまうのは簡単だけれども、それではいつまで経っても成長できない。
 そう考えて、以前は改善するべき点を私なりにやんわりと指摘していた。
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