御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
 それ以降は何事もなく過ぎて、お昼の休憩時間を迎える。
 ランチは自席で食べるか気分次第で外へ出ていたが、今日はあまり食欲がない。コンビニで食事代わりにゼリーを購入すると、非常階段へ向かった。

 重い扉を開けて外に出て、目の前の階段にそっと腰を下ろした。
 ほかの社員がここを利用するのは、おそらく避難訓練のときくらいだろう。いつ来ても人影がないのをいいことに、息苦しくなったときの逃げ場にしている。

「はあ」

 重いため息をつく。
 休憩に入ってすぐにスマホを確認したが、弘樹からの返信はなかった。すっかり彼を怒らせてしまったようで、不安に心が締めつけられる。

 彼と次に会う約束もなくて、どうしたらいいのかわからない。帰ってから電話をかけようとは思うが、出てくれるかもあやしい。

 気がかりはそれだけではない。
 あれからさらに、三浦さんの仕事のミスを見つけて密かにフォローに回った。それを本人に知らせないままでいたところ、気づいた課長が彼女に話をしたようだ。

『私が至らないばかりに、すみません』

 課長の叱責を受けただろう三浦さんは、人の目のある場で瞳を潤ませながら私に頭を下げた。
 詳細を知らなければ、私が彼女を泣かしたようにも見えていたかもしれない。上手く宥めることもできず、『大丈夫です』と端的な返しで終わらせてしまった。
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