御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
* * *

 弘樹と連絡が取れないまま、数日が経っている。このままではさらに関係が悪化しそうだと、焦りが募る。
 もし私が感情のまま泣いて縋れたら、元通りに戻れるのだろうか。
 自分には到底できそうにないとわかっていてもそんな想像が打ち消せず、仕事中も注意が削がれてしまう。

 想定よりも遅れて、ようやく今日のタスクを片づけ終わる。時計を見れば、定時を一時間ほど過ぎていた。

 三浦さんの席に、本人の姿はない。
 彼女は、今日も誰かの手を借りたのだろうか。いくつかの仕事を抱えているはずで、気がかりだ。
 ずいぶん前に席を立った彼女は、なんとなく浮かれた様子だった。もしかして今夜は、予定でも入っていたのかもしれない。

 帰り支度を済ませて、社外に出る。
 弘樹はもう帰宅しているだろうかと考えながら、家路を急いだ。

 私と弘樹は、まるで正反対の性格をしている。
 結婚式場ではあれほど怒りを露わにしていた彼だが、普段は屈託のない笑顔を見せる明るい人だ。
 彼は口数の少ない私に代わって、楽しい話をたくさんして場を和ませてくれる。弘樹のつくりだすそんな空間は、私にとって心地よいものだった。

 営業職に就いている弘樹は、取引相手の都合に合わせるため帰宅時間が日によって大きく変わる。
 タイミングが合えば仕事の後に会社まで私を迎えに来てくれて、食事に出かけてもいた。
 愛されていると感じるのは、きっと傲慢ではないはず。けれどそんな恋人らしい時間を過ごしたのは、もうずいぶん前になる。

 喧嘩別れのようになってしまっている状況を放置するのは、やっぱりよくない。
 ひとり暮らしをしている彼の家に、このまま寄ってみようかとふと思いついた。
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