御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
「いろいろ、ため込んでいそうだな」

 困惑しながら、どう返せばいいのか逡巡する。
 この場を適当に取り繕ったところで、逃げ出してきた姿を何度も見られていたのなら、うそをついても意味がないのだろうと思い至った。

「そうですね。社会人なので、理不尽なこともたくさんありますし」

 素直でないひと言を加えてしまう。
 こういうところが、自分をますますかわいげがなく見せるのだろう。

「悩みや愚痴があるなら、俺が聞いてやろうか」

「結構です」

 親しくない相手に、プライベートの話などできるはずがない。

「そうか? 俺も、成瀬に聞いてもらいたかったんだけどな」

「え?」

 不意打ちの切り返しに、驚きの声をあげる。
 からかわれているのかと思いきや、意外にも真摯な視線を向けてくる。

 なんでも卒なくこなしていそうなこの人が抱える問題は、一体どんなものなのか。にわかに興味が掻き立てられた。

 ただ、私が聞いたところでためになる返しなどできそうにない。そもそも会話が上手く続けられず、気まずくなるだけだ。

「そりゃあ、一応社会人だから。理不尽なことだらけだ」

 さっきの私の言葉を、おどけた口調でわざとらしく真似られる。
 厳しい印象のこの人が、こんな軽口をたたくとは意外で呆気に取られてしまう。

「もう就業時間も過ぎているし、このまま一緒に夕飯でもどうだ? 今日は昼を食べ損ねてしまったんだ」

 情けない顔をしてみせるのも以外で、興味を抱く。
 普段の私ならきっぱり断っていたはずなのに、徐々にその気になっていった。
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