蜜愛契約結婚―隠れ御曹司は愛妻の秘めた想いを暴きたい―
「捕まった相手が、葵さんでよかった」

 思わず本音がこぼれ出る。
 ハッとして、口もとを覆った。
 聞こえてしまったかとそっと葵さんをうかがい見たが、目もとを手で覆ってしまっているせいで表情がよく見えない。

「瑠衣、お前なあ。はあ」

 彼を頼りにし過ぎていただろうかと、不用意な発言を後悔する。

「反応が、かわいすぎるだろ。外じゃなかったら、完全に襲っていた」

 物騒な言葉に、ギョッとする。冗談だろうけど、刺激が強すぎだ。

「な、なにを言ってるんですか。私たちの関係は、そんなんじゃありませんから」

 むきになって言い返した私を、葵さんがくすくすと笑う。
 からかわれたと気づいてムッとする。彼に向ける私の視線はきつく睨みつけているように見えるかもしれないが、今はかまわない。葵さんなら、私が本気で怒っているわけではないとわかってくれるだろうから。

「そろそろ戻ろうか」

 ひとしきり笑い、落ち着きを取り戻したところで葵さんが立ち上がる。
 今日の食事代も、私を押し切って彼が支払ってしまった。
 この場はひとまず引いておくけれど、彼の負担ばかりが大きくなるのはいけない。早々に、ふたりで生活をしていく上でのルールを決める必要性がありそうだ。

「瑠衣が嫌だと言っても、もう放すつもりはないから」

 考え事をしている私の背後で、葵さんがそんなふうに言っているのは聞こえていなかった。
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