蜜愛契約結婚―隠れ御曹司は愛妻の秘めた想いを暴きたい―

強固な決意 SIDE 葵

「久しぶりに成瀬さんに話しかけたけど、あの人、本当に綺麗だよな」

「まあな。でもそのせいで、無表情なのが際立ってしまうというか」

 飲み会の席で、部下らの会話にそれとなく意識を向けた。

「氷のビスクドールって、言い得て妙だよな。少しくらい笑ってくれると、こちらも話しかけやすいんだけど」

 うなずき合う面々を眺めながら、話題に上った女性を思い浮かべていた。

 成瀬瑠衣の存在は、もちろん彼女の入社当時から知っている。
 容姿は整っているものの、表情が乏しくて冷たい印象が強い。だから周囲は、彼女と関わるのを躊躇しがちになる。

 それはともかく、優秀な社員だという話も耳に届いていた。
 一度仕事を教えると、その後はほとんど人を頼らないでこなしてしまう。なんでも自力で解決して、期日もきっちり守ってくる。その仕上がり具合も文句なしの出来だと、仕事に関する彼女の評価は高い。

 優秀とはいえ、入社して数年でそんな評価を得ているのは、本人の努力のたまものに違いない。
 たまに社内で彼女を見かけるが、常にひとりで奮闘しているばかりだ。おそらく、人に頼るのが苦手なのだろう。

 今はそれで解決できているのかもしれない。だが、同僚との関係が希薄であることが、いずれ彼女を悩ませる原因になると想像がついた。
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