蜜愛契約結婚―隠れ御曹司は愛妻の秘めた想いを暴きたい―

不当な悪意

 葵さんと結婚して、一週間が経った。
 日曜日の今日は、午前中はふたりでゆっくりと過ごしていた。
 縁あって一緒にいるのだから、お互いについてもっと知り合いたい。そう言ってくれた葵さんと、リビングでくつろぎながらたくさん話をした。

 途中から「好きな食べ物は?」「行ってみたい場所は?」と、なんだかお見合いでもしているような質問が続いて密かに苦笑した。
 考えてみれば、私たちはそんな些細なことすら知らない。

 それを通り越して自分の抱えてきた背景を語るなど、私としては大胆な言動だった。
 最初に見られた姿があまりにも情けないものだったせいか、いろいろと吹っ切れて心のガードが緩くなっているようだ。

 お昼は外で食べようと出かけて、その後はデパートに立ち寄った。
 なにを買うのかと聞けば、私のものだと言う。必要なものはすでにそろっているし、あるものでやりくりすればいいという私の主張はことごとく流された。

『うちには最低限の食器しかないから』と、マグカップを手にした葵さんは、なぜかそろいのひと組みを購入してしまう。それだけでなく、彼は箸や茶わんなどもそろいで新調した。
『いかにも夫婦って感じだな』なんて言われたら、羞恥でなにも言い返せなくなる。

 買い物の最中は、終始手をつながれていた。
『早く俺に慣れて』なんて耳もとでささやれてドキリとしたのには、気づかれていないと信じたい。

 私にべた惚れの男を演じるとは言っていたが、さすがにここまでなりきるなんて想定外だ。照れ隠しに抗議の視線を向けた私に、彼は魅惑的な笑みを浮かべた。
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