御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
「そういえば、嫌な話を聞いたのよ」

「嫌な話、ですか?」

「そう。なんでも、成瀬さんが小早川さんとは別の男性とも交際していて、二股をかけていたんじゃないかって。それに小早川さんとの結婚は、あなたが強引に迫って断らせなくしたんだろうとも。ああ、もちろん私はデマだってわかっているわよ」

 噂の発信源は、もちろん検討がついている。

「言い出したのは、三浦さんですね」

「正解よ。信じている人は、それほどいないんじゃないかしら。あなたといるときの小早川さんの蕩けきった目を見たら、ねえ」

 意味深な視線を送られて、恥ずかしくなる。思わず顔をうつむかせた。

「そういう成瀬さんの素直な反応も、噂を否定する根拠になっているのよ」

 葵さんが関わると、私はどうしたって平静ではいられなくなる。くすくすと笑われて、頬が熱くなった。

「彼女としては、あなたを貶めるために噂を広げたいんでしょうね。でも、狙い通りにいかなくてかなり苛立っているみたい」

 長谷川さんが、心底うんざりとした表情を見せる。

「そんな話に興味がわくのなんて、ほんの一時よ。正直なところ、他人にそこまでの関心なんてないわ」

 あっけらかんと言ってのけた長谷川さんに、つい小さく噴き出した。
 彼女のおかげで、沈みかけていた気分が浮上する。

「気にするだけ無駄よ、無駄。小早川さんは明らかにあなたしか見ていないし、業務中の成瀬さんの真面目な姿を見ていたら、そんなことをする人じゃないって一目瞭然だもの」

 きっぱりと断言されて安堵した。

「三浦さんがあれこれ言っても、良識のある人は真に受けたりしないわ。以前の私のようにあなたを勘違いしている人もまだいるだろうけど、それでも成瀬さんが手を抜いたり狡いことをしたりするような人ではないって、残した業績からわかるもの」

 上手くいかないことだらけだったものの、これまで自分がしてきたことも間違いではなかった。そう認められた喜びに、目頭が熱くなる。

「まあ、今のあなたを見て、〝氷のビスクドール〟なんて揶揄する人なんていないでしょうよ。だって、小早川さんに愛されてこんなにかわいらしく変わったんだもの」

 からかわれるのは恥ずかしいが、おかげで込み上げてきた感情が静まっていく。
 同時に、彼とは本当の夫婦ではないと騙している後ろめたさを感じた。
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