御曹司は離婚予定の契約妻をこの手に堕とす~一途な愛で溶かされました~
 定時になり、帰り支度をはじめる。
 私を取り巻く状況が改善されてきたおかげで、最近は自分のペースで仕事を進められるようになった。仕事は次々と出てくるものの、残業をしないと終えられないほどではない。

 帰り支度を終えて、総務課を後にする。廊下を歩いている途中で呼び止められて、立ち話に応じた。
 以前は私に話しかけるときに躊躇する素振りを見せていた人だが、もうあからさまな反応はない。こういう些細な変化に勇気づけられて、ますますがんばろうという気になる。

 私たちが話している脇を、帰り支度を終えたと思われる三浦さんが通り抜けていく。
 仕事は終えられているだろうかとつい考えてしまったが、そこは私が心配するところではないと気持ちを切り替えた。

 話を終えて、エレベーターに乗り込む。
 たしか今晩の葵さんは、それほど遅くならないと言っていたはずだ。それなら夕飯は一緒に食べられるかもしれないと、緩む頬をそのままに一階で降りた。
 メニューはなにがいいかと考えながら、浮かれた足取りでエントランスをくぐる。

「お前は、文句か悪口ばっかりだな」

「あなただって、あの女の話ばかりじゃない!」

 外に出た直後に、男女の言い合う声が聞こえてきた。
 その醜悪な応酬に驚いて、足を止める。
 振り返った先には、興奮しきった三浦さんと弘樹がいた。
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