ハルとミモザ
ただ、慎ちゃんのことが大好きなだけなのに。

目に涙が浮かんできたので慌てて涙を拭いた。

「これ、ミモザ?」

慎ちゃんは私が描いていたスケッチブックを指差した。

「あ、うん!慎ちゃん、前に私のことミモザみたいって言ってくれたでしょ?それからミモザが大好きで!」

「ふーん…」

慎ちゃんは黙って私の絵を見つめていた。

あの頃の慎ちゃんは優しかったな。

あー、慎ちゃんのこと、本当に本当に大好きだなあ…。

冷たくされても、この気持ちは変わらないよ…。

私の目から今度は大粒の涙が溢れた。

「うぅ…、慎ちゃん、好き。大好き。結婚したい。したいよぉ。嘘でも良いから好きって言ってよ…」

涙と一緒に気持ちもどんどん溢れた。

慎ちゃんから溜め息が聞こえて、余計に胸が苦しくなった。

「なんで私が、毎年4月1日に結婚してって言ってるか分かる?慎ちゃんに嘘でも良いから、結婚するって、好きって言ってほしいからだよ!今日は嘘ついて良い日だもん!」

「…嘘でも言わない」

「どうして!?そんなに…そんなに私が嫌い!?」

あー、こんなに泣いて、しつこくって、溜め息つかれて。

好かれる要素なんてないや。

自分自身の言葉で余計に心が痛む。

「今日は嘘ついても良いけど、嘘は1回までだ。だったら俺は、嘘でも羽留に結婚するとか好きとか言えない」

「…どういうこと?1回まで言っていいなら言ってよ」

「言えない。俺もう、嘘ついてるから」

「…え、いつ?私に?」

「うん」

慎ちゃんは無表情のまま私を見つめてきた。

「…何を嘘ついたの?」

まさか既に慎ちゃんが嘘ついてるとは思わなくて、予想外の発言に涙が止まる。
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