あやかし王は溺愛する花嫁に離縁を言い渡される
ずっとこうして甘い時間を過ごしていたかったという不満の気持ちが顔に出ていたが、渋々といった様子で手をどけてくれた。

 ゆっくりと起き上がると、あやかし王が背中をそっと支えてくれた。少し動いただけで、息が上がる。

「ありがとうございます。あやかし王が私をここまで運んでくれたのですか?」

「そうだ。死にかけていたから少し力も与えた」

「お手間をお掛けしてしまって申し訳ございません」

 深々と頭を下げると、あやかし王は照れくさそうに破顔した。

「それくらい俺にとっては造作もないことだ」

(どうしよう、とってもいい方だわ)

 想像していたあやかし王とまるで違う。いっそ極悪非道であれば気持ちも楽だったのに。

「あの、この浴衣は?」

「ああ、着ていたものはボロボロだったので新しいものに替えさせた。体も汚れていたので拭いておいたぞ」

「え?」

 琴禰の眉が寄る。すると、あやかし王は慌てて弁明した。

「お、俺がやったのではないぞ! 侍女にやらせたのだ! 俺は誓って見ていない!」
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