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30 家族

 ユーリは、フリーデが助かったことに安心したのか、眠ってしまった。
 フリーデはユーリを抱き抱え、寝室へ向かう。
 ギュスターブがゆっくり後をついてくる。
 刺客に協力していたメイドは親を人質に取られ、無理矢理協力させられていたらしい。
 あのあと、ほうぼうを捜索した結果、両親は無事に発見できたようで良かった。
 ユーリをベッドに寝かせ、布団を肩までかけると、ギュスターブと一緒にそばにあったテーブルを挟んで椅子に腰かけた。

「……ギュスターブ様」
どう説明したらいいのだろう。自分は本当のフリーデではなく、日本という国のしがない会社員で、この『凍る刃』という物語世界に転生したと伝えるべきか。そうでなかったらどうして刺客の存在を知りえたのか、うまく説明できない。適当な理由では、もしかしたら刺客と繋がってると勘違いされるかもしれない。

「無理に話さなくてもいい」

 ギュスターブの言葉に、フリーデははっとした。

「……でもっ」
「そんな苦しい顔をしてるってことは、簡単に説明できることじゃないんだろう。ただ、一つだけ答えてくれ。あの男は、皇帝の刺客なのか?」
「恐らく」
「……そうか」
「あれから考えました。どうして知られたんだろうって。きっと私の妹です。ここに来た時、ユーリと鉢合わせましたから……ごめんなさい。よりにもよって私の身内が……」

 情けない。
 ギュスターブは首を横に振った。

「遅かれ早かれ知られていたことだ。気にするな。それに、皇帝としても刺客を送ることしかできないのは大々的な行動を犯して、世間の耳目を集めたくないということだろう。……ユーリにはどこまで説明する?」
「しばらくは黙っておいたほうがいいと思います。ユーリは優しすぎるからきっと、今回の出来事が自分と関係あると知ったら、罪悪感を抱いてしまうかでしょうから。あの子に必要なのは罪の意識じゃなくて、愛情です」
「分かった。――フリーデ」
「ん?」

 立ち上がったギュスターブは、フリーデの手を優しく掴み、抱きしめてくる。

「ちょ、ちょっと……」

 みるみる顔に熱が集中してきた。

「無事で本当に良かった、本当に、良かった……っ」

 搾り出すような声。
 そしてギュスターブの体が小刻みに震えていた。
 フリーデはその広い背中を優しく撫でる。

「こうして元気でいられるのはあなたのお陰です。ありがとう」

 前世のことを思い出すまで、こうして彼と抱き合う日がくるなんて考えてもみなかった。
 こうして抱き合うあけで安心を得られるものだなんて。
 それも相手はギュスターブ。
 二人は互いの存在を感じ合うように、その格好のまましばらく抱き合っていた。



 翌日、フリーデはユーリの部屋を訪れた。

「フリーデ様?」

 その日も、ユーリはフリーデの言いつけを守り、外には出ず、自分の部屋で本を読んで過ごしていた。

「ユーリ、これから遠乗りにでかけない?」
「い、いいの?」
「もちろん」
「馬車じゃなくって?」
「ええ、ローランに乗って。前からの約束でしょう。この間は、あんなことがあって出来なかったから。私とギュスターブ様と三人だけ。親子水入らず」
「すぐに支度するねっ!」

 準備を終えたユーリと手をつないで外に出ると、ギュスターブが合流した。
 厩舎に向かい馬を選ぶ。そして騎士たちに見送られ、よく晴れた午後、城を出た。
 フリーデたちは馬にまたがり、春の草原を駆けた。
 最初はローランをフリーデに譲ってくれようとしていたけど、やっぱり英雄には英雄の馬がよく似合うと、フリーデは別の馬を選んだ。
 別の馬でもこれまでの特訓の成果がでて、しっかりフリーデの言うことを聞いてくれた。
 一番の初心者であるフリーデに、ギュスターブとユーリが合わせてくれる。

「フリーデ、うまいな」

 右隣に並走しながらギュスターブが微笑む。

「そ、そうですか?」
「当然だよ、ギュスターブ様。僕が教えたんだからっ」

 左隣に並んだユーリは胸を張って誇らしげに言った。

「そうだな。ユーリには人にものを教える才能があるのかもな」
「ギュスターブ様にも教えてあげよっか?」
「ハハハ! まだまだユーリに負けたりはしないさっ!」
「そのうち、僕のほうがずぅぅぅっっとうまくなるよ!」
「その時が待ち遠しいものだな」

 二人は本当の親子でもないというのに、笑顔がよく似ていて、やりとりを聞いているだけでフリーデは微笑ましさのあまり、口元が緩んだ。
 今日はこうして三人で遠乗りにでかけられて良かった。もちろん皇帝は諦めていないだろうが、家族三人、そして騎士や屋敷の人たちが手をたずさえれば、悲劇的な状況は絶対回避できる。

(そうよ。私は生きてる! これからだってこの調子でうまくいくわ!)

 自分たちにはしっかりとした絆があるんだから。
 皇帝のような人間になんて負けない。
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