京の都陰陽師
 時というものは早いもので、晴明と珱姫が吉備の屋敷に行って、1ヶ月が経った。
 右大臣以外は、何の変哲もない日々を、過ごしていた。
 「晴明達は、まだ帰らぬのか!?」
「まだです。
旅立ってから、1ヶ月ですから、もう1ヶ月お待ちください。」
「陰陽師達も偉くなったものだ!
私にもう1ヶ月待てとは…。」
 右大臣が、陰陽師達に文句を言っている時、右大臣の背後から帝が声をかけた。
 「右大臣。
キミも偉くなったものだ。
陰陽師達にそのような言葉使いが出来るとはな。」
 陰陽師達は、帝!と口々に言いながら、帝の元に集まり、膝をつき礼をした。
 右大臣は驚き、膝をついた。
 「これは、帝!
気づきませんでした。
申し訳ございません。」
「右大臣。
今回、晴明達に休暇をとらせたのは、わたしだ。
文句があるなら聞こう。」
「文句などございません!」
「先程、わたしへの文句が聞こえたが、それは空耳だったとでも…?」
「うぐっ…!
も…申し訳ございません…。
しかし、晴明達がいないと、この都が危ないのも確かでして…。」
「今、この中にいる陰陽師達で対処出来ぬことがあるのか?」
「そ…それは…。」
「報告に上がっているものは、全て、ここの陰陽師達のお陰である。とされているが?」
「そ…そうですが…。
もし、ここの陰陽師達では、無理だった場合どうされるのですか?」
「晴明なら、察知して帰ってくるであろう。
現に、珱姫の式神が屋敷だけでなく、街にも居るのだから大丈夫だ。」
「そ…そんな…。」
「お主は、珱姫に会いたいだけであろう?」
「うぐ…!」
「珱姫は晴明の妻。
いつものように、他人の妻を娶れると思うでない!」
「しかし…!
珱姫も陰陽師より、わたしの方が…。」
「無駄だ。
稼ぎにしても、2人とお主では、雲泥の差。」
「そんなに渡しているのですか?!」
「晴明達は、特別だからな。
対価を払っているつもりだ。」
「対価…。」
「そうだ。
晴明と珱姫は、最強だからな。
珱姫の事は忘れろ!
良いな?」
「は…はい…。」
 右大臣は、唇を噛んだ。
 陰陽師達の寮を出た右大臣。
 珱姫が手に入らないと、思うと余計手に入れたくなった彼は、吉備まで行こうと試みることに…。
 都でそんな事になっているとは、露知らずの晴明と珱姫。
 2人は、毎日、ゆったりとした時を、過ごしていた。
 「星の見方からして、ここ数ヶ月は大丈夫やな。」
「そうですね。
都も安定してますし…。」
「そうか。
ほな、大丈夫やな。」
「はい。」
 2人でほっこりしていると、珱姫の式神が来た。
 「珱姫様!
大変です!」
「どうしたの?」
「右大臣がこの屋敷に来ようとしてます!」
「右大臣様が?!
何の用で?!」
「珱姫様を手に入れるためです!」
「そんな!!
わたくしには、晴明様が居るのに…。
どうにかならないの?」
「帝も右大臣に仰ったんですが、聞く耳持たずで…。
どういたしましょう?」
「いいわ。
ここに来たとして、入口が分かるわけないもの。
好きにさせていて。
その代わり、警備の強化を頼むわ。」
「かしこまりました。」
 式神は、都に帰りながら、式神達に伝えた。
 右大臣は、吉備まで行く準備を始めた。
 それを聞いた帝は激怒!
 「右大臣をすぐに呼べ!!」
 帝に言われ、右大臣は恐る恐る帝の元に行った。
 「失礼します。
右大臣にございます。」
「右大臣!
よく参った。
中に入られよ。」
「はっ!」
 帝の部屋の中に入った右大臣。
 帝の顔は、烈火の如く真っ赤だった。
 「お主は、わたしが言ったことに、納得してないのか?!
右大臣ともあろうものが、吉備に行くなど、許されるわけないだろう!
行くだけで、何日かかると思っているのだ!!
お主の仕事は、誰がすると思っている?!
吉備に行くことは許さん!!
すぐに、荷解きをしなさい!!」
「うぐぅ…っっ!!」
 仕方なく、右大臣は荷物を、女中達に、荷解きさせた。
 「珱姫…。
どうすれば、手に入るのだ…。」
 その頃の吉備にある晴明の屋敷では、珱姫の踊りを見ながら、晴明はお酒を飲んでいた。
 式神達は、太鼓を叩いたり、笛を吹いたり、お酌したりと大忙し。
 「流石、珱姫の踊りは美しいなぁ…。」
「ありがとうございます。」
「天女のように舞うなぁ…。
ほんまに、綺麗や。」
 そこに、都に置いて来た式神が、屋敷に来た。
 式神は帝と右大臣のやり取りを話した。
 晴明と珱姫は、大笑いをした。
 「流石の右大臣も、帝には勝てんやろ。」
「そうですね。」
「ここの入り口はどうなってるんや?」
「警備を強化しています。」
「そうか。
畑のご家族は?」
「今日もお母様とお話しして、娘さんも元気で叫ぶ事はないそうです。」
「そうか。
良かった。」
 その時、チリーンと鳴った。
 その音は、入り口に仕掛けておいた、罠に引っかかった者がいる事を知らせるものだった。
 「誰か入って来たんやない?」
「みたいですね…。
ちょっと追い出しましょう。」
 珱姫は、入り口を変え、入って来た者を混乱させた。
 そして、森から出した。
 その者は、式神に声をかけた。
 「もし、そこの人。
安倍晴明様の屋敷まで、案内して欲しい。」
「残念ながら、ワタシは、屋敷の場所を知りません。
他の方にお聞きください。」
「分かりました。」
 式神に会う度に、声をかける女性。
 式神達は、一貫して知らない。と通した。
 女性は、諦める事なく、屋敷の周りを歩いていた。
 式神達が、帰るように促しても、帰らなかった。
 女性は、何度も何日も、ぐるぐると歩いていた。
 痺れを切らした晴明は、屋敷に招き入れることにした。
 「女性を屋敷の中に入れなさい。」
「でも…晴明様…。」
「珱姫。
大丈夫や。」
「晴明様が、仰るなら…。」
「怖いか?」
「はい。」
「僕もや。
どんな人が来るか分からへんし…。」
「女性は、何故、ここを知りたがっているのでしょうか?」
「分からへん。
でも、警戒はするべきやな。」
「分かりました。
この屋敷に術を施しましょうか?」
「そうやな。」
「分かりました。」
 珱姫は、すぐに結界を張った。
 女性は、屋敷の入り口まで案内された。
 「こちらが、屋敷の入り口です。
ワタシ達が案内できるのは、ここまでです。
どうぞ、お声かけください。」
「分かりました…。
ありがとうございます。」
 女性は、式神にお礼を言って、式神達は持ち場に戻った。
 「ごめんください。
どなたかいらっしゃいませんか?」
「僕は安倍晴明。
このまま、お話を聞かせていただきますか?」
「分かりました。
あたしの名前は、ふみです。
つい先日まで、生きておりました。
あたしは、今、死んでいるのですが、この世から離れられません。
どうしたらいいでしょうか?」
「死んでる?!
成仏出来ないって事ですか?」
「そうです。」
「通りで式神を怖がらないはずです。
わたくしは、珱姫。
晴明様の妻です。」
「奥様でしたか…。
どうか、成仏させてください。
もう、あなた方にしか頼めないのです。
お願いします!
お助けください!1」
「分かりました。
結界を解きますね。
晴明様と直接お話しください。」
「はい。
ありがとうございます。」
 ふみは、結界の中に入った。
 「わぁ…。
屋敷ってこんな感じなんですね。」
「そうです。
では、晴明様とお話しください。」
「ありがとうございます。」
 ふみは、すぐに晴明に会いに行った。
 「成仏出来ないと?」
「はい。」
「どのくらい、成仏出来てないのですか?」
「もう、3ヶ月になります。」
「3ヶ月?!
お葬式とかは…?」
「身内がいないので、お葬式はしてません。
無縁仏です。」
「骨が焼かれるとこを見ましたか?」
「いいえ。」
「うーん…。
生きてる可能性は…?」
「それはないかと…。」
「失礼ですが、どのように亡くなったのですか?」
「暴力旦那から逃げるのに、背中を向けた瞬間、包丁で刺されました。」
「医者は?」
「診てもらった記憶がなくて…。
これって、おかしいですか?」
「えーっと…。
珍しいことではありますが…。
旦那さんは捕まったんですか?」
「そこも分からないんです。」
「分かりました。
まずは、病院にあなたがいないか見てみます。」
「お願いします。」
 珱姫は、病院に式神を送った。
 中々見つからなかったが、病院が見つかった。
 ふみは、死んでなかった。
 珱姫はふみに話した。
 「あたしが死んでない?!」
「はい。
昏睡状態です。」
「そんな…。」
「病院代は、旦那さんの親御さんが、払ってくれています。
このまま、体に戻れば、昏睡状態から、覚めるでしょう。
どうされますか?」
「どうって…。
旦那は?」
「死刑になり、実行されています。」
「じゃあ、暴力に怯えなくていいのね?」
「はい。」
「じゃあ、戻して。」
「分かりました。
では、わたくしと病院に行きましょう。」
「はい。」
 珱姫は病室にふみを送っていった。
 ふみは、最初戸惑っていたが、すぐに思い直し、体に戻った。
 体に戻ると、昏睡状態から目覚めた。
 目を覚ました時、1番に目に入ったのは、旦那の母親だった。
 「ふみさん!
意識が戻ったのね?!
すぐにお医者さん呼んでくるわ。」
 医者は慌てて病室に入ってきた。
 「だ…大丈夫ですか?!
痛いとこは、ありませんか?!
目が覚めるなんて、奇跡ですよ!」
「ふみさん良かった!
うちの馬鹿息子が、ごめんなさい!!」
「お義母さん…。
こちらこそ、すませんでした。」
「ふみさんが、謝ることなんてないのよ。」
 ふみは、お義母さんと話した後、病室でゆっくり過ごしていた。
 珱姫は晴明のとこに戻り、ふみの話しをした。
 「そうか。
意識が戻ったんやな?」
「はい。」
「良かった…。」
「はい。
良かったです。」
「今日は、ゆっくり天体観測出来るな。」
「そうですね。」
「珱姫。
あれが、夏の大三角や。」
「綺麗ですね…。」
「あれが、陰ると都が危ないんや。」
「覚えておきます。」
 晴明達は、心ゆくまで、天体観測をした。
< 6 / 8 >

この作品をシェア

pagetop