京の都陰陽師
 更に、1ヶ月後。
 晴明達が都に帰ってくる日になった。
 都にある晴明の屋敷は、朝から式神達が掃除をし始めた。
 博雅は晴明の屋敷に行った。
 「今日、帰ってくるのか?」
「今日、向こうを立ちました。
お帰りは5日後になります。」
「そうか。」
「お酒飲まれて行きますか?」
「準備出来るのか?!」
「はい。
珱姫様からも、言われておりますので。」
「そうか。
ツマミはなんだ?」
「ししゃもを買ってますので、ししゃもです。
七輪用意しますね。」
「おう。
すまんな。」
 博雅は、ししゃもをツマミに、晩酌を始めた。
 晴明の屋敷に灯りが灯ったことで、右大臣は珱姫が帰って来たと思い、屋敷に来た。
 「な…!
博雅!」
「あ、右大臣様。
どうされたのですか?」
「それは、こっちの言葉だ!
お主、ここで何している?
珱姫が帰って来たのか?」
「いいえ。」
「ならば、何故ここで晩酌しているのだ?!」
「式神達が、用意してくれまして…。」
「し…式神…?
そうか…。
珱姫ではなかったか…。」
「右大臣様もどうですか?」
「珱姫の居ない晩酌など要らぬわ!!
帰る!!」
 右大臣は怒りながら帰り、博雅は心ゆくまで、晩酌をして楽しんだ。
 「明日も来て良いか?」
「勿論です。
ツマミを用意して待ってます。」
「分かった。」
 次の日、博雅は晴明の屋敷に来た。
 「今日もすまんな。」
「いえいえ。
博雅様、晴明様の式神がいらっしゃいます。
お話しされますか?」
「勿論だ。」
 式神は晴明の式神のとこに、博雅を案内した。
 「おお。
博雅。」
「晴明…。
長い旅であっただろう。」
「そうでもないさ。」
何日かかった?」
「5日かな…。」
「そうか。
晴明の式神は、晴明だと思って、話しかけて良いのか?」
「勿論、
僕の分身だと思ってくれたらええ。」
「分かった。
吉備はどうだった?」
「静かで、天体観測に最適だった。」
「そうか。
妖などは出なかったか?」
「妖は出んかったけど、生き霊になりかけなのは出た。」
「生き霊って危ないんじゃなかったか?」
「そうや。
まぁ、なる前に止めたんやけどな。」
「そうか。
流石、晴明だな。」
「いや、今回は珱姫がしたんや。」
「へぇ…。
本当に最強の夫婦だな。」
 そこに、ツマミとお酒を持って、式神が来た。
 「博雅様、お待たせしました。」
「おお、ありがとう。
今日は鮎か。
美味しそうだ。」
 鮎の身を箸で取り分け、一口食べてみた。
 「うん!
塩加減もちょうどいい。
美味い!!」
「博雅様、いつもとお変わりなく…。」
「珱姫!
右大臣が苛立っていたぞ?」
「放っておけばいいんです。
あの方と話す気はありませんから。」
「ははは。
珱姫も言うようになったな。
それでこそ、晴明の妻!
ははは。」
「博雅様、楽しんでませんか?」
「いやいや。
楽しんではないよ。
大変だな。とは思っている。」
 そこに、右大臣が来た。
 「珱姫!
そなた、もう帰ってこれたのか?!」
「右大臣様、これは式神です。
珱姫本人ではありません。」
「そうなのか…。
珱姫、いつになったら帰ってくるのだ?」
「まだまだ帰りません。
晴明様が星を見る時間が、要りますので。」
「そんな…。
珱姫だけ帰ってこれぬのか?」
「はい。
晴明様と一緒に帰ります。」
「そうか…。
晴明、あと何日かかる?」
「そうですね…。
ひと月でしょうか…。」
「嘘を申すな!
昨日は5日と申したではないか!」
「星を見ていたら、遅くなりそうなので…。」
「星など、都で見れば良いではないか!」
「星の見え方が違うんですよ。」
「むぅ…!
早く帰って参れ!」
「早く帰りたいのは山々ですが…。
なにぶん、星を見るのも陰陽師の仕事ですので…。
珱姫にも教えないといけませんし…。」
「お主の魂胆は、分かっておる!
そうやって、珱姫と私の邪魔をしているのであろう?
珱姫が取られたくないから。」
「あの、わたくしは、晴明様の妻で、他の殿方の妻になる気はありませんよ?」
「いいや。
珱姫は私の側室にする!」
「もし、それをなさるのであれば、わたくしは自分で舌を噛んで死にます。」
「なんと言うことを申すのだ!!」
「晴明様でなければならないからです。」
「ぐぬぅ…!」
「まだ諦めておらんのか!」
「誰だ?
私にため口とは!!」
 右大臣が振り向くと、そこにいたのは帝だった。
 「わたしが言ったのだが?
何か問題か?」
「い…いえっっ!!」
「それより、まだ諦めてなかったのか!!
珱姫は、晴明の妻だ!!
手に入らん!!
諦めよ!と申したはず!!」
「そうですが…。」
「なんだ?
わたしに意見か?」
「い…いえっっ!!」
「珱姫。
安心して帰ってこられよ。」
「はい。
帝。」
「して、何日くらいかかりそうか?」
「5日を目標にしております。
僕の見立てでは、あと4日の夜中と、思っております。」
「そうか。
気を付けて帰ってこられよ。」
「はい。
ありがとうございます。」
 帝は右大臣を引っ張って帰って行った。
 博雅は晴明達が帰ってくるまで、毎日、晩酌を晴明の屋敷でやっていた。
 この日も、晴明の屋敷で晩酌をしていた博雅。
 「博雅。
毎日毎日、よく晩酌にきたものや。」
「ふふふ…。
いいじゃないですか。
元々、来て頂くために、ツマミも用意していたのですから。」
「珱姫様の言うとおりですよ。」
「ふふふ…。
僕、結構、楽しんでたんやで?
博雅が僕の式神と話すの。」
「そうだったのか?」
「そうやで。
あ、もう着くで。」
「へ?
どこに?」
「僕の屋敷以外どこに着くんや!」
「へ?
ここに?
もう着く?」
「そうや。
外出たら見えるわ。」
「本当か?!」
 博雅は慌てて外に出た。
 「博雅様ぁ!
帰りましたぁ!」
「珱姫!」
「博雅、帰ったで。」
「晴明!」
「ほな、晩酌しよか?」
「分かりました。
ツマミを作りますね。」
「晴明と珱姫だぁ!」
「なに感動してんねん。」
「そりゃ、するさ。
この日を待っていたのだから。」
「ふふふ…。
さぁ、お2人とも、中に入りましょ。」
 珱姫に言われて、晴明と博雅は中に入った。
 「すぐにツマミを出しますね。」
「珱姫。
疲れてへんの?」
「はい。
大丈夫です。」
 珱姫は台所に行き、ツマミを作り始めた。
 「で、どうだったんだ?
吉備での暮らしは?」
「時がゆっくり進んでるような気がして、ゆっくり出来たよ。
珱姫も喜んでたし。」
「そうか。
それは良かった。」
「都はどうやったん?」
「それが、右大臣が珱姫の事諦めてなくてな…。
帝に怒られてばかりだった。」
「そうなんや。
まだ、諦めてへんの?
吉備まで行ったのに…。」
「やはり、右大臣のせいだったか…。」
「なにがや?」
「吉備への旅立ち。」
「そやで。
珱姫もはっきり右大臣のとこには行けません。ってゆうてるのに、しつこいからきびに行ってん。」
「そうか…。
晴明達が帰って来たことは、すぐに広がる。
右大臣の耳にも入るだろう。
どうする?」
「右大臣は式神を怖がっていた?」
「全然…。」
「ほな、僕の式神出して驚かすしかないな。」
「晴明の式神は、珱姫と違うのか?」
「ああ。
僕のは、人の形をしてないんや。」
「そうなのか?!
でも、式神は式神だろ?
何故そんなに違うんだ?」
「珱姫は基本植物やねん。
酒は別やけど。
だから、人形のなんねん。
でも、僕のは動物が多いから、人形をしてへんねん。
僕のは、珱姫が言うには、怪物らしい。
まぁ、妖に妖と思われたりしてるしな。」
「そうなのか!
じゃあ、晴明の式神はどこにいるんだ?」
「一条戻橋の袂。
珱姫が嫌ってるから。」
「一条戻橋?!
あそこで、妖が現れると言われてるが、まさか…。」
「そう。
僕の式神やねん。」
「そうだったのか!!」
「そうやねん。」
 そこに、珱姫が来た。
 「お2人ともお話しが弾んでるようで…。」
「珱姫!」
「弾んでたのは、僕の式神についてや。」
「あの妖式神の事ですか?!」
「妖違うから!」
「あれは妖です!」
「そんなに妖に見えるのか?」
「はい!」
「そうや。」
「見てみたいな…。」
「右大臣が来たら見れるわ。」
「右大臣に晴明様の式神を見せるんですか?!」
「そうや。
まだ、珱ひめのこと諦めてへんみたいやから。」
「それはいいですね。」
「面白くなってきた。
私も見ておこう。」
「面白いからええやろ。」
「そうですね。」
 そんな話をしていたら、右大臣が意気揚々と珱姫を奪いに来た。
 「珱姫。
今日こそは、連れて帰るぞ。
珱姫は私のものだ!」
 その希望は打ち破れようとしていた。
 「珱姫、きたで。」
「では、始めますか。
博雅様、ここに隠れて見ていて下さい。」
「わ…分かった。」
 右大臣は誰にも案内されないまま、勝手に屋敷に上がり込んできた。
 「珱姫。
私が来たぞ。
隠れているのか?」
 暗闇の中、屋敷中を歩き回る右大臣。
 「珱姫!
見つけたぞ!
さぁ、私の屋敷に帰ろう。」
 式神が振り向くと、珱姫に全然似ていない妖がいた。
 「あ…あ…妖!!
晴明!!
妖だ!!
私を救え!!」
 右大臣は叫ぶ叫ぶ。
 それでも、誰も出てこないことに不安になり、右大臣はそそくさと、逃げるように帰って行った。
 「これは…。
妖と思われても仕方ないな…。
珱姫の式神を、いつも見ているからか、違和感しかない…。」
「せやろ?
だから、僕あんまり、式神出さへんねん。」
「なるほどな。」
「博雅、僕がおらん時の都はどうやった?」
「陰陽師寮の人達で、なんとかなっていた。」
「そうか。」
「陰陽師達は、晴明がいない事に不安を抱えてるように見えたがな。」
「そうか。
博雅…。」
「なんだ?」
「僕がおらへんようになったら、都はどうなるんやろ…。」
「は?
また、どこかに行くのか?」
「そやなくて、僕が死んだらってことや。」
「晴明が死ぬ?
そんな事、今から考えているのか?」
「考えるやろ。
こんなに頼られてたら。」
「まだ先のことだろ?」
「そうやけど…。
どうなるか分からんやん。」
「そうだが…。
今から考えるのは、時期早々だろ。
なぁ?
珱姫。」
「そうですよ。
わたくしは、そんな事考えたくありません。
ずっと、晴明様と居たいから。」
「珱姫…。
そやなぁ…。
僕も珱姫とずっと居りたいな…。」
「すっと一緒ですよ。」
「分かった。一緒に居よう。」
「晴明、何故そんなことを考えた?」
「陰陽師寮の皆は、僕より弱いから不安なんや。」
「晴明…。」
「僕が術を教えても、彼らに使いきれへん。
珱姫やったら使えるけど、珱姫ほどの者も居らん。
そう思ったら、ふと考えてしまったんや。」
 珱姫は晴明に抱きついた。
 「僕も珱姫もおらんなったら、どうするやろ…。」
「そんな事お考えにならないでください。」
「ごめんな、珱姫。
不安にさせたな…。」
 珱姫は首を振った。
 その時、珱姫の式神が来た。
 「どうしたの?」
「珱姫様のご命令で、綾子様を唆していた人物を、探しておりました桜です。」
「誰が唆していたか分かったの?」
「はい。
調べるのに時間がかかりました。
申し訳ございません。
なにぶん、式神の存在がバレ、何体も壊されてしまっていましたので…。」
「わたくしの式神が壊されてきた?!」
「はい。」
「それは、かなり強力な術者だわ…。」
「そうなんです。」
「で、誰やったん?」
「はい。
現在、陰陽師達を束ねている、蘆屋道満様でした。」
「蘆屋道満?!」
「あの有名な蘆屋道満様?!」
「蘆屋道満殿が?!」
「はい。
なので、何回も壊されて来たのです。」
「なるほど…。
わたくしの式神を、壊されるのも納得です。
晴明様、いかが致しましょう。」
「帝に話したところで、信じてもらえるか…。」
「そうですよね…。」
「でも、本当に、蘆屋道満殿がやったのであれば、お知らせしない訳にもいかぬだろ…。」
「そうですが…。」
「一大事やで…。」
 そこに、珱姫の式神が、もう1体慌てた様子で来た。
 「どうしたの・
そんなに慌てて…。」
「蘆屋道満様が、こちらに向かってます。」
「なんですって?!」
「まさか、式神の件で?!」
「多分、そうやろ…。」
「そこまでは分かりません。
探りましょうか?」
「バレたら、それこそ、大変んな事になるから、今はいいわ。」
「分かりました。」
 式神が下がると、蘆屋道満が屋敷に来た。
 「安倍晴明!
珱姫!
わたしが、わざわざ来てやったのだ。
おもてなしをせんか!」
「晴明様と珱姫様は、こちらにおいでです。
ご案内いたします。」
 式神の案内で、道満は晴明達のとこに来た。
 「源博雅殿ではありませんか。
3人で晩酌ですか。
良いですなぁ…。
わたしも入れてもらえますかな?」
「かしこまりました。
すぐに、蘆屋道満様のご用意を…。」
 珱姫は式神に命令した。
 式神は、すぐに道満のお酒の準備をした。
 「ツマミは、魚と漬物ですか…。
良いですなぁ…。」
 4人で、晩酌をして、話しを沢山した。
 それでも、晴明と珱姫は警戒していた。
 「そろそろ、わたしは帰るとするかな…。」
「では、牛車の用意をさせて頂きます。」
「すまんな。」
「いえいえ…。」
 珱姫は、すぐに牛車を用意した。
 「道満様、お気を付けて…。」
「ああ、大丈夫だ。」
 道満は小声で珱姫の耳元で言った。
 「珱姫。
お主、わたしが綾子様を操っているのを、知っておるな?
互いのためにも、この事は内密に…。」
 珱姫は固まってしまった。
 「では、また、飲みましょうぞ。」
 蘆屋道満は帰って行った。
 「珱姫、どうしたんや?」
「い…いえ…。
なんでも…。」
「珱姫。
僕に嘘は通用せぇへんよ?」
「ですよね…。
実は、先ほど…。」
 珱姫は道満に言われたことを話した。
 「そんなこと言われたん?!
大丈夫や。
僕が守るから。」
「分かりました。」
 夜が明け、博雅も帰った。
 「珱姫、少し寝ようや。」
「そうですね。」
 2人は寝る事にした。
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