強引社長は才色兼備のOLにご執心 ~そのキス、どういうつもりですか?~
ああ、まずい。熱に浮かされているはずの社長が、本格的に覚醒しだした。口調こそ普段よりゆっくりで頼りないけれど、紡ぐ言葉はいつもの余裕綽々なやつ。

「一静さんは今冷静ではないです。 熱があるんですから。変なこと言ってないで早く寝てください」
「んー、たしかに」

何が面白いのか、社長がははっと笑う。目尻にできた笑いじわがはっきりと見える。こんなに近くで彼の精悍な顔を見るのは初めてかもしれない。

「俺、芹澤のこと好きなんだけどさ」

まだ寝ないか、この病人め!手はまだ熱くて、目がとろとろと眠そうに細められてるくせに、なおも社長は続ける。

「そんな男の家に、おまえは心配して来てくれたんだろ? そういうの、誰にでもやんの」

今度はにこりともしない社長の真意は掴めない。

「社長の…体調管理も仕事の内です。本当は倒れる前に気づくべきでした」
「そんなの、俺が言わなかったんだし芹澤悪くねーじゃん。俺が聞きたいのはそういうことじゃなくて、」
「一静さん、その口閉じないとそろそろ本当に怒りますよ」

私は極力低く聞こえるように彼の言葉を遮った。

「眠るまではいてあげます」
「…ねぇ待って、こっち向いて」

彼の手を振りほどき、床に正座してそっぽを向く私に社長が慌てたように身を乗り出す。

「悪かったって…調子乗った。怒るなよー。なぁ芹澤、芹澤さーん……涼」
「…許可してません」
「でもこっち向いた」
< 44 / 62 >

この作品をシェア

pagetop