強引社長は才色兼備のOLにご執心 ~そのキス、どういうつもりですか?~
私の名を呼び、私が思わず彼を向くと社長は満足そうにへらりと笑った。それから端正な顔を歪め、ベッドにぼすんと倒れ込む。

「…頭いてー……」
「調子に乗ったバツですね。懲りたらとっとと寝てください」
「ハイ…」

素直に目を閉じて、すぐに寝息が聞こえる。無理してたんじゃないですか…もう。
私は立ち上がり、投げ出された手を仕舞うように胸まで布団をかけ直す。

この調子なら一人にしても大丈夫そうだけど、なんとなく、弱った彼を完全に放っていくのは躊躇われた。迷って、私は彼が起きてすぐに目の届くところにメモを残した。

冷蔵庫に差し入れがたくさん入っていること、何かあったら連絡すること。

全然起きる気配はないけれど、物音を立てないように床に脱ぎっぱなしのスーツたちをハンガーにかけて、そっと部屋を後にした。

あと30分で定時という時間。会社に戻って、最低限の仕事だけ片付けて、あとは明日に回そう。
どっと疲れた。
タクシーの車窓から過ぎていく街並みを眺める。

好きって、あれほどはっきりと言われたのは初めてだった。あの夜、私が泣いているのをキスで慰められた時は惚れた宣言されただけだったし。
所詮、病人の戯言よ。そう葬り去ってしまいたいのに、社長の瞳が頭から離れてくれない。心配だからって、長居したのは失敗だったよなぁ。
吐き出したため息の重たさに、タクシーの運転手がバックミラー越しにこちらを窺っていた。
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