強引社長は才色兼備のOLにご執心 ~そのキス、どういうつもりですか?~
その胸の高鳴りの正体も分からぬまま、社長と適度な距離感を保てる日常に戻った、ある日の午後のことだった。
瑠夏ちゃんとランチに出かけた帰り、会社のエントランスの前をうろつく人影に目を凝らす。丸まった背、おどおどしていて気の弱そうなその人は、顔を上げこちらを認識した途端分かりやすくほっとした顔をする。一方で私は、目が合ったことでそれが元彼の湊だと確信し、胸にざわざわともやが広がるようだった。

「涼…! 会えてよかった、場所は知ってたけど、来たことなかったから迷っちゃって…」

湊が、一体何をしに来たのかは分からない。けど、浮気して相手の子を妊娠までさせた最低な元彼との会話を、瑠夏ちゃんがいる所でするべきではない。

「…ごめん、瑠夏ちゃん。先戻っててくれる?」
「えっ、でも、先輩、」

瑠夏ちゃんは大きな瞳をゆらゆら揺らし、心配げに眉を下げる。私は微笑んで言った。

「大丈夫だから。すぐ終わるわ」

そう。本当に。すぐに終わる。私は湊と話すことなんて何も無いのだから。
瑠夏ちゃんは納得していなさそうな表情のまま会社に入っていった。

風が木々を揺らす音だけが響いていて、辺りに人はいない。場所を変える必要はなさそうだ。

「何しに来たの?」
「き、今日は、涼に謝りたくて…俺、最低なことした。涼を傷つけた。あんな、電話で終わらせて、ほんと俺、最低で、」
「もういいってば。 謝罪ならもらったし、こんな所まで会いにこられても…――」
「嘘だったんだ…! 彼女、妊娠は嘘だって…俺を手に入れるためについた嘘。俺は彼女に騙されたんだ」
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