まさかの溺愛、信じられない未来。

何が起こるか分からないから楽しい!

 彼と私は別れ話もしていないのに、今日、彼は私の友人である桜と結婚する。
 彼とは3年以上付き合っていて、私は彼と結婚し夫婦になることを夢見ていた。

「おめでとう、桜」
 私はチラリと桜の隣にいる新郎を見た。

 何食わぬ顔で私の友人の隣にいる彼は、私の部屋で半年前まで将来の家族構成まで話していた男だ。
 彼は2.5次元俳優をしていので、恋愛は明らかにしてはいけないと私とは秘密の恋をしていた。

「できれば、スリムな体型でウェディングドレスが着たかったよ」
 笑顔で言う桜に私は怒りで震えた。

 彼女の新郎とは彼女から妊娠を告げられ、その相手が私の彼氏だと聞くまで付き合っているつもりだった。
 (それなのに、恋人である私の友人を妊娠させてたなんて⋯⋯)

「新しい命も結婚式に出席できて良かったって言ってるよ」
 私は腹わた煮え繰り返る思いで言葉を紡ぎ出した。
「ごめんね。彩花の幸せ奪っちゃったみたいで⋯⋯」
 桜のその言葉に私は全てを察っした。

 思えば桜は私の彼氏をずっと奪ってきた。
「こればっかはしょうがないよね。気持ちばかりはどうにもならないよ」
 そう言われてしまうと、私の女としての魅力も足りなかったと反省したりした。

「桜、もう二度と私の前に現れないで。さようなら。彼とお幸せに」
 私は結婚式場を飛び出したところで、車に轢かれ30年の生命を終えた。

♢♢♢

「リリアナ、ルイス王子殿下の入浴の支度をはやくしなさい」
 私は気が付けばメイド服を着ていた。
「もしかして、私、異世界転生したの? しかもヒロインでもなく悪役令嬢でもなくメイド⋯⋯」
 私は自分のクソみたいな運命に笑いがこぼれた。

「はい、準備を致しました」
 とにかく会話を合わせてルイス王子の入浴の手伝いに向かった。
 銀髪に翡翠色の瞳をしたルイス王子と思しき人が、浴室で服を脱がしてほしいとばかりに待っている。

「ルイス王子殿下、お洋服を脱がせて差し上げますね」
 やり方はよく分からないが、とにかく彼の服を脱がせれば良いのだろう。
「良い体をしてますね。お若いっていいわ」
 彼は10代後半くらいだろうか、とにかくピチピチしている。

「ゆ、誘惑しているのか?」
 なんだかよく分からないが、私の態度は王子を誘惑していると思われたらしい。
 桜もこんな風に私の男を誘惑したのだろうか。
 なんだか、何もかもどうでもよくなってくる。

「私はただ思ったことを言ったまでです。誘惑されていると勘違いされてしまいましたか? それは失礼いたしました。私はただ王子の入浴の手伝いをしたかっただけなのに⋯⋯」

 私が言った言葉に、あきらかに王子が動揺したようだった。

「そうだったのか、なんだかそなたが魅惑的に見えてしまって」

 私は彩花であった時、魅惑的などと言われたことはなかった。
 色気がない、女らしくないといつも言われていた。

「私に男の人を惹きつける力などありません。ルイス王子殿下⋯⋯私ごときに惑わされているようでは将来ろくな女に引っかかりませんよ。どんなに優秀な人間でも女に失敗すると身を滅ぼします。君主になられる方は、むしろ女に興味がない男好きくらいの方がよいかもしれませんね」

 私が言った言葉に引っかかりがあったのか、突然ルイス王子は私の手首を掴んできた。

「剣術に勤しんでいると、すぐにそなた達は男色を疑う。逆に学問に勤しむと、どうせ護衛をつれているのだから、剣術をおろそかにしていると言う。勝手だとは思わないか? 私は、しっかり、リリアナ⋯⋯お前に反応している。男色ではないところを見せてやろう」
ルイス王子は全裸で立ち上がると、私をお姫様抱っこし寝室まで連れていった。

「ルイス王子、無礼をして申し訳ございませんでした。私たちは初対面ですよ。このようなことは間違っています」
 彼にベッドに押し倒されて、驚きのまま私は言った。

「毎日のように会っているのに、初対面のふりをする。駆け引きでもしているつもりなのか? リリアナ、私をあまり舐めてもらっては困る」
 私はそのまま、ルイス王子のお手つきになってしまった。

 朝、ぐったりした体を起こしながら隣をみると、私を愛おしそうに眺めるルイス王子がいる。
「リリアナ、今日から次期王妃になるための授業がはじまる。まったく、回りくどいお姫様だ。入浴中に誘惑してくるなど卑猥なことをしなくても、そなたは私の心をとらえていたのに⋯⋯」
 なんだかよく分からないままに口づけをされ、私の生活は激変するのだった。

 私は、ルイス王子の溺愛する妃となった。

 人生何が起こるか分からない。

 私は異世界で私だけを愛する王子様の妻になり、私たち夫婦は国民の理想と崇められた。 
 
 ルイス王子は生涯たった1人の妻しか取らなかった。
 彼と私が、この国の「一夫一妻制」の歴史のはじまりだった。
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