このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 イリヤもなんとかクライブとの生活に慣れた。いや、裸の彼と共寝することだけは慣れない。慣れたのは、屋敷のこと、定期的に王城へ足を運ぶこと。これくらいである。
 クライブのいない間は、女主人として屋敷の切り盛りをする。数字は苦手であるが、そうも言ってられない。いやいやながらも付き合っているものの、最後の確認だけはクライブにやってもらう。
 最初は「このような簡単な計算も間違えるのか」「いったいどのような教育を受けてきたのだ」と散々であったが、最近では計算間違いも減ってきた。
「閣下、こちらの確認をお願いします」
 そう言ってイリヤがクライブに手渡したのは帳簿である。
「それから、マーベル子爵がお会いしたいと手紙がきておりました」
 マーベル子爵、つまりイリヤの伯父。
 手紙を受け取りながらも、その名を聞いたクライブは、眉間にしわを寄せた。
「日にちの指定はあるのか?」
「いえ、閣下のご都合のよい日にとのことで。公爵邸を来訪したいとのことです」
「当分は、無理だな。今、王城(あっち)の仕事がごたごたしている」
 エーヴァルトはあのときのトリシャの喝が効いたのか、最近では真面目に政務に励んでいるようだ。それでもごたごたしているというのであれば、エーヴァルト絡みの件ではないのだろう。
 クライブは髪の間に指を入れるようにして頭を抱えた。よく見れば、目の下にもうっすらと隈ができている。
 最近の彼は、イリヤが眠ってから眠り、イリヤが起きる前に起きている。寝ていないのでは、と思ったこともあるが、少し乱れた寝台とほのかなぬくもりが、先ほどまで彼がそこにいた証拠でもある。寝てはいるようだ、一応。
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