このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「安心できません。別に、私で勃たたせなくてもよろしいのですよ?」
 イリヤは左手で彼の頭を押しのけた。
「なんだ? オレの妻は照れているのか?」
「妻ではありますが、本当の妻ではありません。ですから、営まなくてけっこうです」
「お前は難しいことを言うな。オレたちは結婚したのだから、身体の相性を確認するのも大事ではないのか? 子がなせるかどうか、重要なことだろう?」
「結婚したとしても、営みは必須項目ではありません。それに、私たちにはマリアンヌという子が授けられていますし、陛下からはマリアンヌの親となるように言われているだけです。私たちの関係については、陛下はむしろ、興味がなかったように思えますが? ですから、このまま契りのない関係でいきましょう。夫婦に見えれば……マリアンヌの親に見えれば、それでいいのです」
 クライブは困ったように、澄んだ森を思わせる目を細くした。
 そこで、さらにイリヤは畳みかける。
「そしてマリアンヌが無事に結婚をされたとき、私たちは離縁いたしましょう。あの様子ですと、マリアンヌが十六歳になったとたん、結婚させそうな勢いでした。ですから、私たちも十六年だけの期間限定の関係といきましょう。その間、閣下の持て余す性欲については、娼館でもどこでも、お好きなところで発散していただいてかまいません。私は、それについては何も言いませんので」
「お前……。本気でそう思っているのか?」
「はい。何か問題でも?」
「問題だらけだろうが!」
 そう言ったクライブは、そのままイリヤに口づける。
「ん、んっ、んー!!!!」
 それから逃れたくて顔を左右に振ると、寝台の上でマホガニー色の髪が暴れた。
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