このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 クライブは人差し指でつんつんとマリアンヌの頬をつつくと「ぶぶぅ」と彼女は涎を出す。
「マリーの正確な月齢はわからないんですよね?」
 異世界から召喚された聖女であるが、言葉が通じない。
「ああ、残念ながら」
「そろそろ、離乳食を始めてもいいかもしれませんね。たくさん、涎も出ているみたいですし」
 マリアンヌが食べようとしていたお菓子にも手を伸ばそうとしていたし、それを見て涎を出していたのを思い出す。
「やはり、食事のときにはマリアンヌも食堂に連れていきましょう。大人の食べる食べ物にも反応を示すのなら、やはり食べることに興味があると思うので」
 確か、妹たちがそうだったはず。
「そうか。オレには離乳食というものがよくわからないが。料理人に伝えておく。それで大丈夫か?」
「大丈夫だと思います」
 マリアンヌはクライブの眼鏡に興味があるようで、先ほどから手を伸ばしている。
「閣下……マリーの前で眼鏡は危険かもしれません」
「ああ、だったら外すか」
 すんなりと眼鏡を外し、テーブルの隅に置く。それはマリアンヌの手が届かぬ場所。
「ですが、外したら見えないのでは? これ、見えます? 指は何本に見えますか?」
 彼の目の前で人差し指を立てて、横に振った。
「一本だ。オレは視力が悪くて眼鏡をかけているわけじゃない」
「そうなんですか? え? なんで? なんで見えるのに眼鏡をかけているんですか?」
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