このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
 誰だ、この男。と心の中で思った。そもそも、クライブは自分のことを「私」とは言わない。エーヴァルトの前でさえ「オレ」と言うのだ。
 イリヤの視線に気づいたのか、クライブもこちらを見つめてにこりと笑う。
「あら、仲がよくてうらやましいわ」
 おほほと母が上品に笑った。
 こんな彼女の心からの笑顔を見たのは、いつ以来だろう。
 これも猫かぶりのクライブのおかげだと思っておけばいいのだろうか。
「お母様は、お義父様とは……その……?」
「まあね。ああいう人だから、だらしないところはあるけれども。なんとか今のところは手綱を握っているわ。悪い人ではないのだけれども」
「きっと、単純な人間なのでしょうね」
 言葉の先を、さらりとクライブが奪った。
「単純な人間ほど、扱いやすいですから。マーベル子爵については、我々も気にはしているのですが」
 クライブの視線を母が捕らえた。この二人の間には、イリヤにはわからない何かがあるようだが、それを追求したいとは思わなかった。
 それは彼とは愛し合って結婚したわけではないからだ。お互いがお互いの立場を利用している。そういう関係。
「お姉ちゃん」
 一番上の妹のエリンがイリヤを呼びに来た。エリンだってまだ十歳である。その下に六歳、四歳と続く。
「マリーが変」
「え? 変って何?」
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