このたび聖女様の契約母となりましたが、堅物毒舌宰相閣下の溺愛はお断りいたします! と思っていたはずなのに
「これはこれは、宰相閣下。我が家にいったい、どのようなご用件で……」
 何も悪いことはしておりませんよ、とでも言うかのように手をすりすりとすりあわせている。
「あら、あなた。イリヤが結婚したと伝えたではありませんか」
 おっとりとした口調で子爵夫人が言うと、彼は「そうだったかな」と首を傾げる。
「ですが、あなたはこれから商談でしたわね。ほら、ドミ会長が待っているのではなくて?」
 母の言葉に押されるかのようにして、マーベル子爵はクライブに頭を下げて屋敷を出て行った。
 イリヤがしばらく見ないうちに、母も強くなったような気がする。いや、昔からしたたかだったのだ。だからイリヤを守るためにサブル侯爵を紹介してくれたのに、その紹介先もクズだった。
 そう、母がぼやいた。
「イリヤ、ごめんなさい。あなたにばかり辛い思いをさせて……」
 案内された先のサロンで、マリアンヌは三人の妹たちに囲まれて手足をばたつかせている。
「いいえ、お母様。私、辛いと思ったことはありません。ただ、ちょっとお義父様とサブル侯爵はアレでしたけれど。まぁ、成り行きですが、こうしてクライブ様と知り合えたので、結果的にはよかったのですかね?」
 クライブに同意を求めると、彼は「そうですね」と頷く。
 隣にいるクライブは、いつものクライブと異なる。そんな気配を感じた。
「私もイリヤと知り合うことができたので、義母上には感謝しかありません。それに、今までの経験があったためか、彼女はとても芯の強い女性です」
 イリヤは隣のクライブを二度見した。
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