三角関係勃発!? 寝取り上司の溺愛注意報

三章 まさかの三角関係の件④

 藤本の車の助手席に座りながら、沙耶はたったいま別れたばかりの尚樹のことを思い出していた。車窓を流れていく夜の都会の景色に、つい尚樹との思い出を重ねてしまう。たまにはケンカをしたこともあったけれど、仲のいいカップルだと思っていた。いずれ結婚するだろうとさえ思っていたのに。
沙耶が小さく溜息をつくと、運転席の藤本が前を向いたまま声をかけてくる。

「さすがに疲れただろう?」

 沙耶は藤本のほうを振り向き、苦笑を浮かべた。

「ええ、まあ……でも、すっきりしました。これもすべて課長のおかげです」
「亮、でいいぞ」
「えっ」

 急に距離を詰められ、沙耶はポッと頬を赤らめる。
 ニヤリと、藤本が笑った。

「なんてな。弱ってる女を口説くなんて、そんなずるいことはしないよ」
「か、課長……」

 沙耶はそんな真摯な藤本に心からの感謝の念を抱き、微笑んで改めて礼を言う。

「本当にありがとうございました、藤本課長」
「役に立ててよかったよ。まあ、半分は小林からお前を奪いたかったっていう下心があったのは否めないけどな」
「も、もう! 冗談はそこまでにしてください! 私、ほ、本気にしちゃいますから……っ」
「本気で考えてくれる?」
「え……」

 沙耶は呆然として、藤本を見つめた。
 赤信号になり、車が一時停止した。小さく唸るエンジン音に紛れて、藤本が言う。

「沙耶が好きって、あの日言ったことは本気だから」

 大きく目を見開いていると、信号が青に変わった。

「これ、俺のマジな告白だからな」

 藤本がジッと沙耶を見つめている。
 そのまっすぐな瞳に射貫かれ、沙耶もまた藤本を見つめ返していた。ドキドキと、胸の鼓動が高鳴っていく。

(どうして課長といると、こんなに心をかき乱されるんだろう……?)
「あ……」

 しかし口を開こうとしたところで、うしろからクラクションが鳴らされてしまう。なかなか発進しないセダンに業を煮やした後続車の、早く行けという合図だろう。
 藤本が「やばい」とばつが悪そうにつぶやき、慌ててアクセルを踏み込んだ。車が再び、夜の都会を走り出す。

「とにかく今日は家まで送ってくから、ゆっくり考えてみてよ。ね?」
「課長……」

 なせか胸がいっぱいになり、沙耶は結局このときは何も答えることができなかった。
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