眠れる海の人魚姫〜政略結婚のはずが、御曹司の一途な執着愛に絡め取られました〜
すれ違う思い
「どれもすごく美しいですねえ」

 トンネル型の水槽にふわふわ浮かぶ海月(くらげ)を見上げ、美雨はぽかんと口を開いていた。
 深い藍色の水の中、白くほの光る海月がいくつもたゆたう。それぞれが思い思いに傘を閉じたり開いたりしながら水流に乗って漂うさまは、さながら夜空を照らす月のようで美雨はほうと感嘆の息を吐いた。

「嶺人さん、見てください、あの海月……んんっ」

 隣に立つ嶺人の袖を摘み、長く触手を伸ばした変わった海月を差し示そうとしたところで口を塞がれた。触れるだけのキスだったが、急にされると心臓に悪い。
 美雨は足の許す限りバッと嶺人から離れ、唇を手のひらで押さえた。

「あのっ、ここ、外で……っ」

 顔を熱くする美雨とは反対に、嶺人は涼しげな面持ちをしている。

「誰もいない。問題ないだろう」
「そうではなくて……っ」

 美雨は赤くなった頬をこすりながら恨めしく嶺人を仰いだ。今日だけで二回もキスされている。いいと言っていないのに!
 じっとりとした半目になって美雨は頬を膨らませた。

「嶺人さん、キスがお好きなんですか」
「キスというか、美雨が好きだ。愛している」
「――えっ?」

 ふわりふわりとさゆらぐ海月に囲まれ、けれどこちらを見下ろす嶺人の顔に揺らぎは微塵も見当たらない。この上なく実直に、真摯に、美雨に心の裡を告げているようだった。

「は……」

 吐息だけが唇から漏れ、ろくな返事もできない。その場に棒立ちになってただ嶺人を凝視していた。気を抜けば床にくずおれてしまいそうだった。

(……待って、どういうこと?)
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