セブンアンドシックス

第2話 ありえない兄弟!?!

梛々子(ななこ)の住むボロアパート(翌朝)

目覚ましがけたたましく鳴っている。

梛々子「…あさ…ぁぁぁぁあ」

キャラクター物の古めかしい時計を見ると午前5時。

梛々子「支度しなきゃ…バイト…」

布団からのっそりと身体(からだ)を起こす。
六畳一間のボロアパート。机の上にある茶封筒に目がいく梛々子。

梛々子「……」


◯(回想)

六花のことを思い出す。
ホテルで誓約書を書けと言われたこと、バイト先のバーで遭遇し、水割りを作ったこと、それから車の後部座席でキスをされたこと――

(回想ここまで)


梛々子「くっそー!!!!」

ムカムカムカー!とくる梛々子。ボサボサの頭をかきむしる。

梛々子「なんなのあいつ!わけわかんない!!!」
「なにが礼よ!オーナーが従業員にセクハラしただけじゃない!」
「ダリィーっ!」

勢いにまかせ、茶封筒を手に取り、中身を確認する梛々子。ずっしり重い三百万円。

梛々子(?!?)
「ええええええーーーっ⁈」

梛々子「ななななっなにこれ!ここここんなになんで!?」

茶封筒を前におののく梛々子。急に輝いて見える。

梛々子(手切れ金って言ったわ、たしか…)
(煌夜の家は超金持ちで…でも数ヶ月つき合っただけの女の手切れ金に300万とかフザけてない??)
「逆の意味で怖いわ…返しにいこ…」


◯アパートの玄関前

玄関のドアを開け、外に出る梛々子。外側のドアノブに何か引っかかっている。

梛々子「ん?」

ペットボトルの飲料とおにぎりが入った袋がひっかかっている。

梛々子「あ、まただ…」
「誰だろ? 差し入れはありがたいけど…」

梛々子(もしかして煌夜(こうや)…? まさかね…)

そんなことを考えながら、外階段を下りる梛々子。
道に出ると、

煌夜「ナ、ナナコ…っ!」
梛々子「!! 煌夜⁈」

息を切らせて走ってくる煌夜。

煌夜「追っかけられてる!家から逃げてきた!」
梛々子「えっ⁈」
煌夜「オレ、ナナコにまだ用がある!」

煌夜にぎゅっとハグされる梛々子。胸がキュンとする。
アパート1階の窓からふたりを覗き見する怪しい影。ふたりはまったく気づかない。

梛々子(煌夜、やっぱり私のこと――!)
(でも…)

目をぎゅっとつぶり、唇を噛む梛々子。

梛々子「煌夜…家から逃げてたの?」
煌夜「ん? ああ…」
「許せないんだ! オレのこと、なんでも言うこと聞くってあいつら思ってる!」
梛々子「あいつら?」
煌夜「オレの母親と兄貴! カァ〜っ腹たつ!」
「あいつらに一泡吹かせてやりてぇ!」
梛々子「一泡…ねぇそれってどういう意味?」
(どういうこと?? 私のことが好きで別れたくない…ってことじゃ…ない?)

煌夜「だってさぁ、俺に黙って梛々子に別れろって言うなんてトチ狂ってるだろ?」
梛々子「う…うん」
「実は昨日――」
煌夜「あーわーってるわーってる、これまでずっとそうだった」
「俺がつき合う女に目をつけて勝手に別れさせんの」

ハァーっと深いため息を吐き、頭をぽりぽりと掻く煌夜。

煌夜「女に誓約書と金を渡してハイサヨナラコース。梛々子もそうだろ?」
梛々子「…うん」

カバンから茶封筒を取り出す梛々子。煌夜の目が光る。
梛々子の手から茶封筒を乱暴に奪い取る煌夜。

梛々子「!?」
煌夜「やーっぱ300万か。いいねぇこれがあれば十分遊べる!」

興奮気味に茶封筒の中身を確認する煌夜。あっけにとられる梛々子。

煌夜「じゃーな梛々子!サンキュー!」
梛々子「ちょっ、煌夜??」
煌夜「いやー俺さぁ、監視がきつくって! 逃亡防止のために金を絞られてんの。カードはすぐ上限きちゃうしぃ、現金でないと遊べない場所だってあるしな♪」
「いやマジ、朝イチで来た甲斐(かい)あったわー!これでしばらく安泰ってな!」

ハハハ!と笑って去ろうとする煌夜。梛々子はハッとし、後ろから煌夜のフードを引っ張る。

煌夜「グエッ!」
梛々子「待ちなさいよ!」
「一体どういうこと!説明してっ」

梛々子の手を振り払う煌夜。

煌夜「ナーナコちゃん!また連絡するからさぁ!なっ」
梛々子「でも!」
煌夜「ほらバイトだろ!お前、ビンボーだから働けよぉ」
梛々子「っ!」

胸がツキンと痛む梛々子。

梛々子(たしかにそうだけど…今までそんなに露骨に言ったことなかったのに――)

そこへ、黒塗りの車がやって来る。ふたりの近くで停車。

煌夜「ゲッ、やばっ!」

車のドアが開く。優雅に降り立ったのは六花(りっか)

六花「捕まえろ」

すぐさま黒服の男たちが煌夜を捕獲する。茶封筒も没収する。
黒服が取り返した茶封筒を六花に手渡す。

煌夜「クソ兄貴!返せよ!!!」
梛々子(えっ?)
(あ、兄貴――⁇⁇)

勢いよく六花を見る梛々子。かたや、涼しげな様子の六花。

六花「一晩、泳がせてやったのにその口の利き方はどうなんだ?」
煌夜「オレはひとりで逃げ切ったんだバーカ!」

六花、ちいさくため息を吐く。

六花「さぁ、これでこいつの本性がわかっただろう?」

立ち尽くす梛々子に視線を送る六花。

六花「親がどうとか家がどうとか言いながら、結局覚悟を決められないドラ息子。自分で金を引っ張ることもできず、女を利用してこのザマだ」
梛々子「……」
六花「これは君のものだ。受け取りなさい」

梛々子の前に改めて茶封筒を差し出す六花。

六花「これで君は煌夜のことを忘れて新しい生活を」
梛々子「……」
煌夜「だぁーー!!返せよっ!オレの金だ!!」
「そんな貧乏人が金持ったってどうしようもねぇよ!バカだからビンボーなんだっ」
「朝から晩まで働いて、それでこのボロアパート暮らしだぜ? 脳みそないって!」
六花「……」

胸のなかがカッと熱くなって、目に涙が溜まる梛々子。
悔しく、梛々子が煌夜に言い返そうとしたが、先に六花が煌夜を殴る。

梛々子(!!!)

煌夜「ぐぁっ!!」
「な、なにすんだクソ兄貴っ!」
六花「ビタ一文も稼いだこともないお前に彼女を罵る権利はない」
梛々子「!」
六花「このバカを乗せろ」

黒服に命じる六花。

煌夜「なにすんだ離せー!」

煌夜が無理やり車の後部座席に押し込められる。
六花は梛々子をふり返り、

六花「朝から騒がせたな」

一言残し、六花も車に乗り込む。

梛々子(――……)



◯場面転換 その日の夜 梛々子のアルバイト先・会員制バー

marico「いらっしゃーい!」
六花「……」

カウンター内にいる梛々子とバチっと目があう。汗をダラダラとかく梛々子。
息を落とす六花。

六花「…辞めろと言ったはずだ」

呆れた様子で口を開く六花。カウンターの椅子に腰掛ける。
梛々子がすっとお通しを出す。今夜は蒸ししゃぶサラダ。箸を伸ばす六花。

六花「うまいな」
梛々子「ありがとうございます」
六花「お前が作ったのか」

六花が問いかけるとコクンとうなずく梛々子。
村尾の水割りも六花の前に出される。

梛々子「ナカさんの手伝いをしています」
六花「……」

六花が奥の厨房に目を向ける。オネェのナカがくねくねしながら料理をしていて、六花と目が合うと「キャッ!オーナー!」とハートを飛ばしてくる。

六花「ナカはネビュラン★3のイタリアンで勤め上げた料理人だ。あいつに料理を仕込んでもらったか」
ナカ「やぁだぁオーナー!ナナコちゃんのこと気に入っちゃったぁ⁈」
「ナナコちゃんはぁうちに来た時から料理の基本がちゃんとできてて、すぐ即戦力よー!アタシもお休みとれるようになって大助かりなんだからぁ!」
「泣かせちゃダ・メ・ヨ♡」

ムキムキボディのナカがくねくねしながら六花に話す。
話を聞きながらグラスをかたむける六花。

六花「…厄介だな」

ボソッとこぼす六花。

梛々子「あのっ、えっと…オ、オーナー!」

梛々子が勇気を振り絞って話しかける。
じろりと目を向ける六花。

六花「なんだ」
梛々子「あの、あとで渡したいものがあります。お、お返ししたいものというか!」
六花「金ならいらん」
梛々子「私が困ります!」
六花「迷惑料だ。煌夜が世話になった」
梛々子「…それは」

うつむく梛々子。「で、でも」と声を上げる。

梛々子「で、でも…大金すぎます…」
六花「まずはその金で引っ越せ。あんな防犯もクソもないアパートに若い女がひとりで住むんじゃない」
梛々子「あそこはあれで安くて便利なんです!駅も銭湯も近いし…」
六花「銭湯? 風呂もついてないのか…」
梛々子「トイレも共同ですよ」
「昔、学生寮だったみたいです!」

梛々子が自慢げに話すと、六花は呆れた様子で椅子の背に体重を預けた。

六花「自慢するところか。…なおさら早く引っ越せ」
梛々子「嫌です。お金は返します」
六花「めんどくせぇ」
梛々子「納得いかないお金はもらえません」
「価値と見合ってませんから」

梛々子がキッパリ言うと、六花はかすかに目を見張り、口の端をあげた。

梛々子「なんですか…気持ち悪い急にニヤニヤして…」
六花「…いや? そんなことはない」

蒸ししゃぶサラダを完食した六花は、

六花「今度は腹にたまるものを作ってくれ。そうだな昨夜maricoが食べてた鯛の出汁茶漬けがいい」

梛々子に料理を注文。

梛々子「!」
「はい、ただいま」


◯時間経過 夜の道を走る車中

梛々子「……」

車の後部座席、窓の外を眺める六花。緊張した様子で隣に座る梛々子。

梛々子(なんでこんなことに――)
「あ、あの、別に送っていただかなくても…」
六花「夜道でなんかあったらどうする? 警察沙汰になれば俺の店までバレて営業停止を食らう」
梛々子「そんなことにはなりませんっ、今までも大丈夫でしたから!」

子供っぽく口を尖らす梛々子。

六花「あん? これからも大丈夫だって保証はどこにある?」
梛々子「そ、それは…」

(ひじ)をつき、窓の外を眺める六花を盗み見する梛々子。長い指と整った横顔。
胸が妙にドキドキする。

梛々子(煌夜の…お兄さん、なんだよね…あんまり似てないな)
※煌夜は人懐っこい猫顔。六花は正統派の男前。

梛々子(昨夜、この人に…キスされた…)

昨夜のキスを思い出すとますます胸がドキドキして身体がカチコチに。

六花「なんだ? 安心しろ、今夜はなにもしない」
梛々子「?!!」
六花「顔に書いてある。『今夜もキスされたらどうしよう』って」
梛々子「はあああぁぁああぁぁあ⁈」

梛々子(な、なんなのこの人!!エスパーか!!きもっ)

六花「未成年に興味はない」
梛々子「はいはい!私もオジサンに興味ないですから!ないない!全然ない!」
六花「オジサン? 俺は27だ」
梛々子「ええっ?? てっきり三十歳は超えてるかと…」

怪訝そうに眉をひそめる梛々子。「ウソでしょ…」と仄暗い顔をしながら、なんどもつぶやいている。

六花「…キスした時はあんなに可愛い顔するのにな」

六花が梛々子の顎をクイっとする。梛々子の顔が一瞬にして真っ赤になる。

梛々子「★◯×△*+〜〜!?」
(な、なんなのコイツーーー‼︎‼︎‼︎)

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