セブンアンドシックス

第5話 ありえないイモウト!?!

◯アパート 梛々子の部屋

必死に抵抗する梛々子。田辺は梛々子の口を手で塞いでいる。

田辺「もう、元気がいいなぁ!ななこちゃんは」
「ねぇねぇ、落ち着いて。あれなんだと思う?」

田辺が視線を送る先を梛々子も目で追う。金属缶がある。


梛々子「?」
田辺「僕さぁ危険物取扱免許持ってんだよねぇ。で、ガソリンスタンドでバイトしててぇ」
「だからちょろっと頑張れば普通にガソリン買えちゃう♡」

梛々子(はぁっガソリン――?!)

田辺「こーんな木造アパート、ガソリン撒いたらすーぐに燃えちゃうよね♡」
「それとも僕といっしょにかぶっちゃう??」

梛々子(!?! な、なに言ってんのこいつ!?!)
『んーー!んんんーー!!』←「やめてー!離してーー!!」言っている

田辺「わかってるよ〜そんなことしないって!」
「だから手を離しても静かにしてくれる? 君とキスがしたいんだ♡」
口を手で押さえてたらできないだろ?」
「いいかい?」

梛々子の顔に自分の顔を寄せ、ささやく田辺。
梛々子は顔を真っ赤にして、目に涙を溜めている。

梛々子(いや……!)

田辺「いいかい、大声を出したらすぐガソリン撒くからね」
「ライターもある」

梛々子(!)

恐々とうなずく梛々子。

田辺「よし、いい子だね♡」

田辺は梛々子の口から手を離し、ぷはっと息をする梛々子。息を吸い込むため、呼吸が荒くなる。

田辺「怯えた顔も可愛い…」

うっとりする田辺。梛々子に顔を近づけてくる。

田辺「ずっとキスしたかった…」
梛々子「っ!」

梛々子(やだ! 私の人生、こんなのばっか…!)

トラウマになっている黒い影がふっと脳裏をよぎる。目をぎゅっとつむる梛々子。

梛々子(誰か助けて――!)

雷が落ちるような大きな音が響くのと同時に、玄関扉が吹き飛ぶ。

田辺「!! なっ、なんだ⁈」
梛々子「!!」

田辺が慌ててふり返った瞬間、殴られて吹き飛ぶ。

田辺「……ぐぁっっ!!」
梛々子「?!」
(えっ――?)

拳を握った六花が立っている。

梛々子「――り」
「りっ…」

梛々子の唇が震えて、言葉がうまく出ない。
六花は苦々しい表情を浮かべたあと、部屋にあるガソリン缶に気づく。
殴られた田辺がそれに手を伸ばそうとする。

六花「高嶺!」

あとから来た高嶺が田辺を制止しようとする。ふたりはもみ合いになりながらも高嶺が田辺を取り押さえる。

高嶺「このクソ野郎…!」
田辺「ヒィ!なんだお前…!」

六花「…大丈夫か」
梛々子「……」

六花が梛々子を気遣うが、梛々子は涙をぼろぼろと流したまま返事をしない。
カタカタと震えて、目の焦点が合わないままだ。

六花「梛々子?」



◯場面転換 数日後、とあるビルの中にある六花の法律事務所


執務机に向かう六花。スマホで電話をしている。

marico『今日、病院行ってきたけど、やっぱり声が出ないのはショック性のものだって』
六花「…そうか」
marico『ナナコちゃんによると今までもなったことがあるから、落ち着いたら治るって…』『ゆっくり時間をかけるしかなさそう』
『私もできる限りサポートするわ』
六花「世話をかける」


◯場面転換 maricoのマンション・リビングにて

marico「でも…あんなに元気なナナコちゃんが…心療内科に通っていたなんて…」
「ううん、いいんだけどさ。だから今回もすぐに診てもらえたんだし…」

診察カードを手に取るmarico。『麻生梛々子』と名前の欄に書かれている。

marico「声が出ない以外は元気そうよ。ご飯もちゃんと食べるし」
「うん、うん」

六花との電話を切るmarico。ソファに座ってぼんやりする梛々子をふり返る。

marico「六花に電話しといたからねー大丈夫!」

明るく梛々子に話しかけるmarico。
梛々子はノートに、

梛々子『本当に…いろいろとありがとうございます。助かりました』
marico「いいのよこれくらい!」
梛々子『病院も…ついていってくださって』
『前もショックなことあったとき声が出なくなって…でも、休んだら元に戻ったので!今回も大丈夫だと思います!』

ノートに書き記し、両腕でガッツポーズを作る梛々子。

marico「ナナコちゃん…」

maricoは健気な梛々子をぎゅーっと抱きしめ、頭をよしよしする。

marico「無理しないの!」「うちでよかったら、ずっといてくれていいんだからね」

梛々子(…maricoさん…)

目に涙を浮かべる梛々子。泣きそうなところ、唇をぎゅっと噛み締め、無理やり笑顔を作る。
そこへ、ピンポーンとインターホンが鳴る。

marico・梛々子「?」


◯場面転換 六花の法律事務所

執務机に向かい、考え事をする六花。

六花(……)

電話をとり、

六花「調べ物を頼む。『玉木玲』と『麻生琳子』。『玉木玲』は現在の名は『麻生玲』。ふたりとも素性を洗えるだけ洗ってくれ」

一言二言、言葉をかわし、通話を終える六花。


煌夜「なーに調べてんだよ、兄貴」
六花「…いたのか」

応接セットのソファに寝転がっていたのは煌夜。むくっと起き上がり、

煌夜「梛々子をmaricoさんちに住まわせてるって聞いた」
六花「耳が早いな」
煌夜「なんで兄貴がそこまでアイツに関わんだよっ」
六花「お前に話す義理も義務もないな」
煌夜「カァ〜!! ムカつくっ! アイツはオレの女だったんだぞ!」
六花「どうせ手切れ金目当てだろ?」

呆れたため息を落とし、六花は仕事を再開する。煌夜をろくに見ない。
苛立つ様子の煌夜。

煌夜「ああそうさ! ナナコとつきあったのは手切れ金目当てだったさ!」

六花の机に詰め寄り、両手をバン、と勢いよく叩きつける煌夜。

煌夜「だけどさっ、アイツ…ナナコは今までの女と違ったんだよ…」
「オレにワガママ言うことも、泣いてすがることも、なかったんだ」
六花「……」
「…お前が頼りないからだろ?」
煌夜「だぁああああ?! なんだとクソ兄貴!」
六花「思ったことを言ったまでだ。自分を磨くことだ。金を引っ張ることや家から逃れることばかりに時間と頭を使わずにな」
煌夜「兄貴になにがわかんだよ!生まれながらに自由がないオレのこと、なにがわかるってんだ!!!」

怒りに任せて煌夜が六花の机の上にあった書類を乱暴にぶちまける。

煌夜「オレはな!桂木家になんか生まれたくなかったんだよ!!!」
六花「……」
煌夜「オレはもっとフッツーの会社員の家に生まれて、好きな高校に行って…帝王学なんぞクソ喰らえだ!」

叫ぶように言って、息を切らす煌夜。
六花は表情を変えない。

六花「……」
煌夜「…兄貴はいつもそうだよな、涼しい顔して、お前が桂木家を継げばいいのに!」
「わかってるぞ、兄貴もおふくろも本当はそう思ってるくせに…!」
六花「…嘆いたところで、現状を打開するのは自分自身」
「他人を妬んだり、理想を語ったところでどうにもならん」
「気が済んだのなら帰れ」


◯場面転換 maricoのマンション


ピンポーンとインターホンがなり、maricoがモニターを見に行く。

marico「ハイハーイ、宅配かしら?」
「!」
「えっ!? ryoco?!」
梛々子「?」

モニターを見て驚くmarico。

ryoco「Hii!! ヤッホーおねーちゃん!」

キャミソールに短パン、ロングコート、大きめのサングラスという出で立ちの女性が部屋に入ってくる。

ryoco「ヒサシブリー! ゲンキにしてた?」
marico「どうしたの?! いつ帰国したのよ??」
ryoco「morning!! アサだよ!」
marico「朝って…いつもは帰国前に連絡くれるのに…なにかあったの??」
ryoco「んーん! なんにもナイヨー! 日本が恋しくなって急にってカンジー」

きょろきょろとリビングを見渡すryoco。
ソファに座る梛々子を見つけ「hoooo!!!」と声を上げる。

ryoco「コノコ、だれー?」
marico「ナナコちゃん。いまうちに泊まってるの」
ryoco「ウッソ〜もしかしてMybedつかってるカンジー?」
marico「だってryocoはしばらく帰国しないと思ってたから…」

梛々子(……)

ryoco「エー可愛いイモウトにそんなこと言うー? 『いつでも帰ってきていいからね』って言ったのおねーちゃんジャーン」
marico「そうだけど…」
「ナナコちゃんは六花に頼まれて預かってるから」
ryoco「リッカぁー?」
「……」

梛々子に近づくmaricoの妹のryoco。顔をじっと凝視し、

梛々子「?」
ryoco「…カワイクナイ」
梛々子(え?)
ryoco「カワイクナイカワイクナイカワイクナイ‼︎」
梛々子(えええっなんなのこのひと――!?)

顔面が引きつる梛々子。


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