期待、するから
……いや、無理か。
どうせ止めなかったとしても、今みたいにすんでのところで蓮がやめただろう。
だって蓮には、私とキスする理由なんてないんだから。
「……っ」
泣くな。バカ。
泣いてたら、嘘を真に受けたみたいになっちゃうでしょ。
必死に涙を堪えて、わしゃわしゃと髪を乱している蓮を見下ろす。
きっと、後悔してるんだろう。
ここまでしてしまったことをなのか、嘘をついてしまったことをなのかはわからないけれど。
でも、後悔させてやると思っていた私の狙いは、これで大達成だ。
……帰ろう。
いつまでもここにいても、どうにもならない。
泣きたいくらいに胸が痛いのに泣けないっていうのは、想像よりもずっと辛い。
最後に蓮を見下ろして、踵を返す。
けれど、一歩踏み出そうとした足は、その場から動くことができなかった。