元令嬢は俺様御曹司に牙を剥く 〜最悪な運命の相手に執着されていたようです〜
 その夜、恵美さんが帰ってしまった一人きりの部屋で、さっそく購入した下着とパジャマを身に着けてみた。飛鳥は明日の朝まで帰って来ない。だから、単なる練習だ。

 ダボっとしたスウェットよりは締め付け感があり、けれどモコモコ素材は温かい。鏡の前で可愛いじゃん、なんて思っていると、不意に玄関の扉が開いた。

 嘘っ!

 慌てて廊下に出た瞬間、目が合ってしまった。玄関からこちらを覗く、飛鳥と。

「お、おかえり。仕事、泊りなのかと思ってた」
「その予定だったんだが、早く終わったから帰ってきた」

 飛鳥は一度こちらをちらりと見たけれど、そのまま私の横を素通りしてダイニングへと向かう。

「夜ごはんは? 食べた? なんか作ろうか?」
「いや、いい。それより、早く寝ろ」

 追いかけた私にかけられた言葉は、思っていた反応と違う。いつものようにニヤリとも笑わず、仏頂面の飛鳥に思わず「へ?」と訊き返してしまった。

「その格好、足冷えるだろ。だから」

 ああ、そういう……。

 昨夜のような、乱れた飛鳥にキスされると思った。そのまま、ことに及んでしまってもいいと思った。

 好きだから、求めて欲しいのに。好きだから、好きだって言って欲しいのに。私の「好き」と飛鳥の「好き」は、違うの?

 けれど、そんなこと、聞けない。私は、飛鳥に「絶対に好きになんてならない」と、宣言してしまったのだ。負けたようで、悔しい。
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